人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

内閣府
M&A失敗例を分析 日本特有の企業文化、障害に

2004年5月8日 毎日新聞 朝刊 10面

記事概要

 内閣府は2004年5月7日、「わが国のM&A(合併・買収)の動向と課題」と題する中間報告をまとめた。報告のねらいは、過去のM&Aの失敗例を分析し、その原因を多角的に探って、M&Aの将来展望を盛り込む夏の最終報告につなげようというもの。(報告は)欧米における失敗例と日本のそれとの比較から特に日本でM&Aがうまくいかない理由として、「組織(企業)文化へのこだわり」が大きいこと、をあげている。統合にあたって、整合性のある組織構造・人事制度・業績管理・意思決定等の仕組みができるが、実際に統合された現場では「過去の企業文化を残し強化する(日本特有の)メカニズム」が、(統合することでかえって)顕在化し、統合効果の障害として働くと指摘している。

文責:清水 佑三

統合システムを人為的に作る弊

 記事は内山勢記者によるもの。署名ものは一般に内容が優れている。この記事も60行に満たない分量であるが、簡潔にいいたいことをまとめている。内容は次の三点にまとめられる。

  • 欧米でもM&Aの成功率は高くなく3割。
  • 欧米の失敗は買収価格に起因することが多い(結果的に見合わない)。
  • 日本の失敗は過去の企業文化にこだわる(心理的)メカニズムが、シナジーを作らせない。

 中間報告によれば、2003年の国内におけるM&Aは1728件あり、過去最高を記録した前年と同じ水準を維持している。最近のM&Aは次のような顕著な特徴があるという。

  • 預金保険機構、産業再生機構など「官」主導のM&Aが増えている。
  • 投資ファンドのM&Aが急増している。
  • 日本企業どうしのM&Aが多い。

 産業再生機構にしても、投資ファンドにしても、M&Aの案件をつめるプロセスは「計算」である。つきつめれば費用対効果のシミュレーションを繰り返して最善手を選ぶ。損益計算書、貸借対照表、キャッシュフローの数値をもとにシミュレーションがなされる。統合されることで起こる人心の不安、怯えといった要素は統合審査の対象になりにくい。

ところで、生物の個体内で起こるさまざまな現象は、そのまま生物の群れ(組織、企業)において(ほとんど相似形で)模倣・再現される。

 人の体の全体を網にかけて捕らえるように網羅している統合システムは大別すると三つある。代謝エネルギー、白血球(免疫)システム、自律神経系システムである。それぞれのシステムが長期間バランスを失う状態が続くと統合障害としてガンやリウマチなどの組織破壊やアトピーなどの環境不適応が起こる。

 まったく同じことがM&Aにおいても起こる。

 M&Aは、それぞれの組織、企業の統合システムを強制的に壊し新しい統合システムを人為的に動かそうとすることである。バランスがとれていた単体としての状態から、統合を経てアンバランスな状態に一気に突き落とされる。

 代謝エネルギー的視点でいえば、情報の入出力に、不足、過剰が起きる。管制塔が正常に機能しなくなるのである。白血球(免疫)システム的視点でいえば、競合相手に対して働いていた攻撃の仕組みが、自分に向かって発動する。敵は本能寺にあり、となる。権力闘争にあけくれる。自律神経的視点でいえば、昼の活動(緊張)と夜の睡眠(弛緩)のリズムが壊されて、昼だけ(過労部署)になったり夜だけ(しらけ部署)になったりする。

 内閣府の分析報告は、日本特有の企業文化へのこだわりが、M&A成功の阻害要因として働くとだけ述べている。このことは、我々は統合システムを何よりも重視する民族性をもっている、ということのいいかえである。

 意図的、操作的になされた統合は、長い時間をかけて醸成されてきたそれぞれの統合システム(=文化)の命がけの抵抗を呼ぶ。統合システム重視型の社会におけるM&Aの成功確率はどうしても低くならざるを得ないだろう。

コメンテータ:清水 佑三