人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

フューチャーシステムコンサルティング 
オープンシステムのITコンサル 経営も人事評価も開放型

2004年5月27日 日経産業新聞 朝刊 22面

記事概要

 フューチャーシステムコンサルティング(フューチャー)の成長神話は、昨年末、はじめて陰りを見せはじめた。連続14年続けてきた最高益更新記録が途切れたのである。といっても連結営業利益率は直近の2003年12月期で12.7%の水準を保っており、富士通、NECの3%台を大きくしのぐ。圧倒的ともいえる収益率の高さは、「オープンシステム」という言葉で表現されるフューチャー独特の経営戦略が市場に受け入れられたことによる。フューチャーのオープンシステムは、小型サーバー、PC、汎用OSなどの他社製品を自由に組み合わせた上で、ユーザーにあったソフトウエアを、「早く、安く、使いやすい」形で提供するもので、急速に浸透し、従来、大手のメインフレームメーカーの牙城とされていた金融機関向けシステムまで(今では)手がけるようになった。このオープンシステム的発想は技術、営業だけでなく、経営や人事評価にも応用されている。

文責:清水 佑三

開放型評価制度のすすめ

 日経産業部の藤本秀文記者の署名入り原稿。概算の行数87、400字詰めで10枚近くの労作記事である。創業15年でITベンチャーの雄となったフューチャーの成長神話を解き明かそうという強い記者の意欲が行間から伝わってくる。藤本記者が創業者語録として紹介した以下のコメントがおもしろい。順序に意味はない。

  • 「戦略は現場にある」
  • 「顧客重視と現場重視とは同義だ」
  • 「大手はあぐらをかいてふんぞり返っている」
  • 「大手ではできないサービスや技術を提供すればよい」
  • 「自分なら安価で信頼性の高いシステムを構築できる」
  • 「現場の意見や要求を聞けば業務の改善や技術の底上げにつながる」
  • 「経営者の仕事は社員の主体性や能力を引き出すための環境づくりだ」

 オープンシステム的発想が社内の人事評価にどのように応用されているか。記者の目の動きを忠実にたどって追跡をこころみる。

  • 社員は毎年1月から3月にかけて前年度(1〜12月)の自分の仕事を振り返り、発表する。
  • 社長を除く全、役員社員がこの振り返り(個人評価プレゼンテーション)をする。
  • このプレゼンの日時は社内のイントラネットで公開され、聞きたいものが出て自由に発言してよい。
  • 自分がなぜ、なにを、どうやったか、働き手は訴える。その訴えにたいして疑義がだされる。
  • その疑義に対して働き手はさらに自分の考えを詳しく述べる。
  • プレゼンおよびプレゼン後の参加者とのやりとりが上司による評価の重要な根拠になる。

 (もしこの紹介のとおりであるとすれば)フューチャーでは、社長をのぞくすべての役員、社員が自分の仕事ぶりに対して公開裁判を毎年1回受けることと同じだ。人事評価はブラックボックスの中でなされるもの、という常識がものの見事な挑戦を受けている。

 筆者はこうした考え方を成果主義に対比させて、レビュー主義と呼んでいる。アングロ・サクソンとよばれる英語を母国語とする人たちが、世界地図上で多くの支配面積をもつのは、(筆者に言わせれば)彼らが成果主義をとるからではなくレビュー主義をとるからである。

 レビュー主義とは強い否定のパッションである。否定されている価値を列挙しておく。

  • 自分にのみ有効な理屈
  • 成果を伴わない意欲
  • 事実に基づかない断定
  • 背任(=公約未達成)

 収益力は、付加価値を投影する。フューチャーが高い収益力を維持できているのは、「大手はあぐらをかいてふんぞり返っている」とみる現実への嫌悪感を、嫌悪感のままで終わらせないで(人事評価の手法にみるような)具体的なツールに落とし込んで、実行しつづける「知恵と勇気」が(指揮官に)あるからだ。

 「知恵」「勇気」とも評論家には求められないものだ。ベンチャー魂といわれる「破壊と創造のパッション」だけが生み出すもの。その根源は「かくあってはならない」という強い怒りである。藤本記者はその間の機微を余すところなく伝えている。

 読むだに身のひきしまるよい記事である。

コメンテータ:清水 佑三