人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
三菱ふそうトラック・バス
体質変えるか新体制 意識改革 具体策これから
2004年4月22日 産経新聞 朝刊 9面
記事概要
三菱ふそうトラック・バスのビルフリート・ポート社長(4月16日に就任)は堀道夫会長とともに、4月21日都内で記者会見に応じ、リコール(放置)問題の原因を「安全、品質に対する感度の鈍さ、原因追求が不十分だったこと。今後は(再発させないように)人材育成と企業文化の改革に取り組む」と語り、業績への影響に対する質問に対して「組織改革ど前向きな施策で(マイナスの)影響を最小限に抑えたい」と語った。堀道夫会長も「安全への社員の意識改革、一人ひとりのマインド向上が大切」と何度も強調した。トップが口にした企業風土の改革が実を結ぶかどうかは、会見をきく限り「未知数」だ。風土改革の具体策は12人の中間管理職からなる文化改革推進委員会によって経営に提言される。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
企業文化と企業体質とは同じものか?
コメンテータ:清水 佑三
三菱ふそうトラック・バスは、三菱自動車工業のトラック・バス部門が平成15年1月に分社化して誕生した会社だ。三菱自工において、平成12年にリコール隠しが発覚した時も、今と同じように諮問委員会が作られた。結局、委員会提言は生かされず今回の事件となった。これでは前と同じではないか。本当に改革をやる意志があるのか、が記者の苛立ちの背後にある。
記者会見で三菱ふそうトラック・バスの首脳は改革すべき対象を「企業文化」だと語った。ところが産経のデスクはその言葉はとらず、「体質変えるか新体制」と見出しをつくっている。
この記事の価値はここにある。新聞は「社会の木鐸」であるべきだとして、あえて会社の使う言葉を使わず、(世人を覚醒させ、教え導くために)言い換えを行ったと(筆者は)みる。なぜか。
「企業文化」はきれいな響きをもつ言葉であるが「体質」は必ずしもそうではない。
広辞苑は「文化」について「技術・学問・道徳・宗教・政治など生活の様式と内容を規定する精神的な所産」と説明している。「体質」は「組織などに深くしみこんでいる性質」と説明し、用例として「古臭い体質」「企業の体質を改善する」の二つをあげている。いずれもなかなかとれない汚い染みのようなイメージを想起させる。
記者の苛立ちには、問題の捉え方が奇麗事に過ぎる、がある。前も同じように奇麗事として捉えて前も失敗したではないか、悪弊を断つためには、「泣いてバショクを斬る」勇気が必要だ、といいたいのである。
アルコールやクスリ依存症を断つためには、当人にとっては辛い毎日が必要だ。悪弊を断つ、は簡単なことではない。奇麗事ではすまない。経営トップに強い意志がなければできっこない。たくさんの自らの血が流されなければならない。
翻って、新しくトップに就任したものの立場に立てば、(記者、新聞社とは)まったく異なる風景が目の前に広がる。
自社の社員を断罪することは天にツバするのと同じだ。まさに社員一人ひとりが、自己客観化能力をもち、自らの手で社会の価値観と乖離している部分を認識することから始めないと何事も始まらない。強い危機感と問題意識をもち、適切な思考力を働かせることができる社内有志の協力によって、なぜ、なにを、どうしてゆくべきか、自己変容プログラムを自ら主体的に作りたい。
私が仮に、同じ立場に降りたてば、それ以外の処方は浮かばない。身に染み付いた悪弊を摘出する問題としてではなく、あくまでも今ある統治法(技術・道徳・政治)のどの部分に注目しそれをどこからどこのレベルに高めてゆくかの問題として交通整理するしかない。
身につまされる問題だ。