人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

シャープ、新人事制度 事業部の業績達成度と連動

2004年4月1日 日本経済新聞 朝刊 12面

記事概要

 この4月から、電機大手8社の先鞭をつける形でシャープはBSC(バランススコアカード)による業績評価制度の導入に踏み切った。本社管理職3500人がこの評価制度の対象になる。各事業部ごとに、財務、顧客満足、業務プロセス、人材開発の四つの視点から、事業部固有の目標を設定し、目標の達成度で評価をするのがBSCである。導入の狙いは各事業部の管理職の意欲を高めること、事業部の収益改善の二つである。

文責:清水 佑三

シャープのBSC導入の仕方は現実的だ

 BSC(バランススコアカード)について多少の解説を加えておく。BSCは、1992年、ハーバードの経営大学院教授のR.S.キャプランと、経営コンサルタント、D.P.ノートンの2人によって考案された多面的複眼的な経営手法である。現在、米フォーチュン誌のグローバル1000社の約半分の企業で(BSCは)導入されているという。

 (BSCは)評価手法というより、経営目標の定義法として捉えたほうがわかりやすい。

 具体的には従来の財務指標に加えて、顧客満足度・顧客維持率・品質・サイクルタイム・従業員満足度・スキルアップ度などの多面的な非財務的指標を設けて、経営戦略の立案、実行、評価を行う。従来のマネジメント手法が、ハードメジャー(数値によって捕捉できるもの)の改善にかたよりがちであったのに比べ、キャプラン、ノートンの提唱したBSCでは、思い切ってソフトメジャー(数値によって捕捉しにくいもの)を経営目標にもってきたところに革新性がある。

 品質や従業員満足度などのソフトメジャーの定義の仕方に自由度があるため、原作者の意図とは違った間違った使われ方をすることが多く、結果として導入効果がはっきりしないで、竜頭蛇尾になりがちだ。本質を勉強せずに、新しい手法にすぐ飛びつく我々の性癖による問題で、思想をつくった原作者の弊ではない。企業力という複雑な現象を複雑な現象として「アバウトに」定義する手法として、従来の同種の方法と比較すると、格段に優れているというのが筆者の感想だ。

 さて、シャープにおけるBSCの導入法であるが、この記事によれば、次のように整理できる。

  1. 事業部ごとにBSCの細目指標をつくる。
  2. BS=貸借対照表=的な視点(時点を区切って指標を部門別に比較する)ではなく、PL=損益計算書=的な視点(ある部門内での指標改善度を時系列的に比較する)で使う。
  3. 改善度が顕著な事業部の管理職を高く評価し、そうでない事業部の管理職を低く評価する。

 小さな記事であり、踏み込んだ記述がないため、これ以上のコメントはできないが、この手法の導入と適切な運用によってシャープはさらに強くなるとみる。その理由は新しい考え方をよく理解し現実的な導入をしようとしてるからだ。具体的にいえば、

  1. 部分解(部署の頑張り)ではなく全体解(事業部門全体の繁栄)に目がいっている。
  2. 品質や顧客満足、従業員満足等の企業力を規定する本質に目がいっている。
  3. 年収の高い層を、個人ではなくチームとして評価しようとしている。

 こうしたあたらしい手法の導入にあたっては原作者の精神を徹底的に勉強すべきだ。細かいところにこだわらないほうがうまくゆく。場合によっては換骨奪胎してもよい。バランススコアカードのもっとも大事な考え方をとりいれればよいのである。シャープのように。

コメンテータ:清水 佑三