人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

北陸電力 役職定年制度を導入
登用拡大へ飛び級も 実力主義徹底図る

2004年3月25日(木) 電気新聞 朝刊 3面

記事概要

 北陸電力は企業体質の強化を目指してあらゆる面でコスト削減をめざしてる。組織のスリム化とともに2004年度から「役職者定年制度」を導入する。導入の目的は、役職者層の若返りによる企業活力の向上。4月1日からは満年齢55歳以上の役職者はいなくなる。ラインからスタッフに転じて専門的業務や後進の指導にあたる。また、「飛び級制度」もあらたに導入する。従来は職能と役職との(レベル上の)対応が原則だったが、その原則を外して実力主義人事を推進する。

文責:清水 佑三

 

 電気新聞は、創業が明治40年という歴史をもつ新聞である。昭和17年に現在の形態(社団法人日本電気協会発行)になった。発行部数の6割近くが電力会社、電気工事会社に届けられているという。一般市民の目に触れることの少ない「専門紙」の典型のようなメディアだ。ジャーナリズムという言葉がもつ「批判性」と遠くなるのはやむをえない。

 役職定年制度は特に目新しいものではない。北陸電力の場合は、(報道によれば)「最終年齢を定めただけで、個別の職位に対しての定めではないが、一般に、役職定年制度は次のような形で定めることが多い。

  • 本社部長 支店長 57歳
  • 本社部次長 営業所長 55歳
  • 本社課長 支店次長 53歳

 こうした職位別定年制度の真の敵は「滞留=同じ職位に長期間とどまる」とよばれる現象である。組織において滞留の度合いが増すほど、特定の人による組織(部署)の私物化が進みやすい。それを防ぐ意図をもったアメリカ大統領の任期制限などが思い浮かぶ。

 制度設計者の意図の背後に次のような仮定が潜む。

  1. 「滞留」はその部署を活性化させない。
  2. 役職定年制度を設ければ「滞留」を防げる。
  3. 「滞留」がなくなれば、組織は若返り活性化できる。

 逆に、次のようなギブアップ宣言が隠れているとみる。

  1. 適材適所を客観的な基準で実現するのは無理だ。
  2. 組織が必要とする人を捨ててしまっても仕方がない。

 ラインとスタッフが相克して、折衷案としてこうした「役職者定年制度」のようなものが作られる。スタッフのラインに対する楔のひとつが「役職者定年制度」である。カリスマ性をもつ役職者であってもこの制度が厳正に運用されれば、そのポストをいつかどかなければならない。

 年功序列制度と役職者定年制度とは表裏一体のものだ。どちらも年功、年齢という基準をもって人事制度を行う点では共通する。年齢以外の基準の導入ができない、と暗黙に語っているのに等しい。

 真に日本的なる企業ほどこの年齢呪縛からフリーになれない。意欲、能力という状況の函数のようなものに対して(欧米人のようには)信をおかない、われわれの「深層価値観」があるからである。

 この問題は暗くて深い。北陸電力の行動は氷山の一角であって、多くの企業が同じように役員定年制度を設ける。現自民党執行部が前職者の言を翻して(比例代表制の候補から)中曽根康弘をはずしたのも同根だ。

 われわれは(どうしても)コンピテンシーなるもので人事を行うことを好まないのである。

コメンテータ:清水 佑三