人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

小泉首相 “事務次官OB天下り禁止宣言” 
官僚は戦々恐々 “助け合い人事制度の崩壊懸念”

2004年3月17日(水) 産経新聞 朝刊 10面

記事概要

 特殊法人改革の目玉として出された「小泉禁止令」ショックが霞ヶ関(中央官庁街)を襲った。小泉首相の次官OBの天下り禁止が現実化すれば、局長以下の官僚OBについても、自然縮小してゆくと考えられる。第2、第3、第4の天下り先が用意され、そのつど高額の退職金を手にする従来の慣習は“渡り鳥”人事といわれ、民間では考えられない、と顰蹙を買ってきた。「小泉禁止令」は的を射ているという意見が多い。一方で「業務や組織の再構築とセットでなされるべき」「やる気を殺がれる」など当の官僚側は困惑の度合いを深めている。

文責:清水 佑三

 

 「渡り鳥人事」については説明が必要だろう。ある政党のホームページに以下の文章がある。公党の主張などで引用しても著作権侵害にはあたらないだろう。転載してみる。

 「…現在92の特殊法人が存在している。この特殊法人に対して、毎年2兆5000億円以上もの税金に加え、郵便預金や年金を原資とした財政投融資からの補助金3兆円(総額35兆円)、貸付金2000億円が使われている。この特殊法人は、さらに関連会社を次々と設立し、官僚の天下り先として、裾野を広げている。関連会社を含めた職員数は、18万人(60万人とする資料もある)をこえる。特殊法人や民間企業の名誉職を数年ごとに渡り歩いて、退職金を多額に得る人事を「渡り鳥人事」と称す」

 ある時期、労働省関連の特殊法人の理事を仰せつかって、年次総会に出席し、民間でいうところの「営業報告」をきいて開いた口が塞がらなくなった経験がある。統計をとるためだけに存在し、しかもその統計が何にどのように使われているかにまったく関心をもたない政府外郭の法人とは何であろうか。その団体の理事長以下は、すべて労働省関連の高級官僚OBで占められていた。

 この国にはこの種の「まったく無用のもの」がゴマンとあるのだと直覚した。国においてしかり、地方においてしかりだろう。税金を納めている者の立場、感情からいえば「勘弁してくれよ」である。

 記事中、「小泉禁止令」を実行に移すと、官僚組織を支えてきた人事制度が崩壊しかねない、という表現がある。その人事制度とはこの記事によれば以下のようなもの。

(一種試験を合格して入省した者をキャリア組と呼んで他と区別する)
  • キャリア組は同期入省ごとに輪切りにされ、出世競争をする。
  • 出世競争の勝敗は40歳代できまり敗者は退官してゆく。
  • 勝者は1人だけ本省に残り事務次官を拝命する。
  • 退官者には特殊法人や所管団体の上級職が用意される。
  • 本省事務次官を頂点とし特殊法人上級職を底辺とするピラミッドが形成される。
  • 本省事務次官を退官した者はピラミッド上層の職場を第2、第3、第4と転々とする。

 以上は、官僚の世界の話である。

 われわれ民間にあっても同じような構造はないか。自社内、グループ内を点検すべきだろう。

 渡り鳥人事をやめましょう、というよりも先に、組織のための組織、その人の面倒をみるためだけのポストはないかどうか、その点検が先だ。

 もって他山の石とせよ、という意味でこの記事をとりあげた。

コメンテータ:清水 佑三