人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

組織・制度改革進める三菱自動車工業 
人事本部は「社員のため」 役割・業績を重視/グローバルに統一

2004年3月3日(水) 日刊自動車新聞 朝刊 11面

記事概要

 三菱自動車は2002年に実施した管理職の人事制度改革に続き、2003年の4月から組合員(非管理職)社員についても役割、仕事に応じて処遇、給与等を柔軟に動かせる仕組みにあらためた。2004年度の人事本部の目標として(1)評価制度をグローバルに統一、(2)次世代リーダー育成プログラムのスタートを掲げた。人事はわかりにくい部署という社内評価を変えてゆくべく国内200、海外200の要員を叱咤して「顔の見える部門になろう」の標語のもとに積極的な行動を開始した。従来の労政、企画、給与、採用、教育、厚生等の縦割り行政だけでなく、研究開発、購買、生産、生産管理、販売、管理などのサービスの受け手を意識した組織への変身を狙っている。

文責:清水 佑三

 

 「三菱自工」でGoogleを検索する。あまりよい情報は出てこない。2000年のリコール問題をはじめ、損益予想の下方修正、引責的なニュアンスでの社長交代などの見出しが並ぶ。パジェロをひっさげてパリダカを制した技術の勢いをもった三菱自工のイメージは後退している。

 この記事にある三菱自工の人事部署の自己改革とは

  • 人事部門の顧客満足度を調べたらネガティブなものが出てきた。
  • 最大の理由は「相談に行ってもたらいまわしにされる」などの顧客志向の欠如にあった。
  • 人事部門の顧客は現場であることを再確認する。
  • 担当窓口を設置して相談する時の「壁」を低くする。
  • 担当窓口の設置は日本国内の現場だけでなく海外のグループも対象にする。
  • 同時に人事部門の目標を明確化する。
  • 評価制度のグローバルな統一および次世代リーダーの育成、がその目標
  • 人事本部の方から現場に赴き、社員に働きかける、が具体的な行動となる。

 人事部署はどこの企業でも経営、企画、勤労(労政)、採用、教育、給与等に細部化されているものだ。財務、法務と同様に全部署に対して横断的に働く専門官センターのイメージが強い。サービスの受け手を意識して人事部門と現場との接点を明確化しようという三菱自工の試みはユニークだ。喩えを使えば、人事にお客様相談室を設けるイメージである。

 記事によれば、こうした努力の結果、それぞれの職種ごとに人事制度の変更を説明しやすくなり、「社員と人事との距離が縮まった」という。

 たとえば、次世代リーダーの育成には、次世代リーダーに求める要件を明確にしなければならない。ポジションごとに、必要な経験、知識、能力等を明確に定義しないと誰が適任かの議論に入れない。研究開発、購買、生産、販売…ごとに仕事をよく知っている人事部署の人が要件定義の仕事をしてゆかないと出てくるリストは抽象的になるだけだ。そういう意味で次世代リーダーの育成問題ひとつとっても人事と現場との接点の明確化は重要な意味をもつ。

 また「評価制度をグローバルに統一」も、その延長線上にくる課題である。国、地域が変われば、そこで働く人の価値観や行動様式も変わる。日本人だけが組織の上にたつ仕組みは、国、地域の優秀な人の意欲を殺ぐばかりか、日本の価値観や行動様式の押し付けになりかねない。受益者不在の人事行政になりかねない。働く人がだんだんと意欲をなくす。人が意欲を持たない限り能力の発揮はない。

 三菱自工の「人事本部は社員のためにある、顔の見える部門になろう」という標語は、「会社は市民のためにある、市民から顔の見える会社になろう」と同義だ。

 ひとりのパジェロファンとして、こうした努力が三菱自工の再生の機縁となることを祈ってやまない。

コメンテータ:清水 佑三