人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
日本IBM 来年2月からFA制度導入
Web上に異動希望登録
就業意欲高め企業競争力強化
2003年12月24日(水) 日本工業新聞 朝刊 4面
記事概要
日本IBMは外資系企業であるが、年功序列的な人事制度の色彩が強いが、変化に対応できる体制づくりを目的に2004年2月から人事制度を刷新した。具体的な内容として、所属長が関与していた就業目標の設定を自主的にできるようにする、企業内ポータルサイトを使って所属長との電子面談ができる、主査クラス以上の社員の異動希望をWeb上で登録できるようにする(FA制度の導入)等が含まれる。
文責:清水 佑三
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フリーエージェント制度は危険な選択
コメンテータ:清水 佑三
日本IBMは面白い会社だ。マスコミが何をどう書こうと気にしないところがある。ソニーにも似たところがあるが、勝安芳(海舟)が福沢諭吉にあてた書簡中の「行蔵は我に存す、毀誉は他人の主張、我に与からず我に関せずと存じ候。各人え(批判文書を)お示し御座候とも毛頭異存之なく候」という姿勢と共通する考え方だ。自分のスキャンダルを暴露されて、写真週刊誌の編集部を襲撃したビートたけしの対極にある考え方である。
「月刊テーミス」の12月号に『日本IBM「人格障害者」対応策作りへ』という記事が載った。そこに日本IBMの部長研修で同社の産業医が明らかにしたメンタル疾患に関するデータが紹介されていた。昨年度の年間報告事例317件、うち、統合失調症5%、人格障害8%という驚くべき事実の開示があった。滅多にお目にかかれない内部データである。ちなみに、残りの87%は健常者がストレスにさらされて感情、神経の平衡を失う感情障害、神経症であってこれは心の風邪のようなもの。
以前、日本IBMの社員の不祥事が新聞に掲載されたことがあった。偶々、時を同じくして同社の人事部長に会ったことがある。ずいぶん前のこと。いろいろの話が出たが、「こういう社員が特に御社に多い印象があるが…」と尋ねたら、「違う。同業他社と発生率はそれほど違わない。ただ、うちは警察畑の人を引き受けて記事にさせない、という発想がない。結果的にこういう記事が目立つだけだ」という返事があった。見識をもっている会社である。
ところで記事中にあるフリーエージェントという言葉であるが、異なった二つの意味で使われている印象がある。一つはプロ野球などで使われる用語法で、昔のお店(たな)などで使われた年季あけ、のイメージに近い。昔はお店が奉公人を雇う時に一年一季と数えて、雇用契約年限をあらかじめ定めていた。年季中の職人はまだ半人前で、年季をあける(約束の年限を勤めあげる)と一人前とみた。松井秀喜はイチローと違って年季あけをまってメジャーに行った。それが日本人の琴線に触れて、ファンの幅を広げた。
もう一つは、フリーランサーと同じ意味で使われる場合である。この場合、どこの組織にも所属せず、自由に個別契約を結んで仕事をするプロフェッショナルを指す。タレント性の強い歌手やライターなどの世界でよく使われる。ダニエル・ピンク(米)が書いた『フリーエージェント社会の到来「雇われない生き方」は何を変えるか』(ダイヤモンド社)では、フリーエージェントが活躍する未来のアメリカ社会の姿が描かれている。滅私奉公の人がもてはやされた時代とは隔世の感がある。奉私滅公の人が主役に踊り出る時代がもうすぐ来るとピンクはいう。
企業内フリーエージェントは、後者ではなく前者の意味で使われる。会社に一定の貢献をした人に対して、今度は会社がその人に一定の貢献をしようと考える。貢献あった個人のキャリアパス設計に協力を惜しまない、という価値観の制度化である。
リスクは企業内ボートピープルの発生だ。次のようなことが思い浮かぶ。
メリットは、会社は好きだけど今の仕事や職場はちょっと、といった人たちへのメッセージ効果であろうか。