人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

シャープ
液晶技術者150人中途採用
来年3月までに アジア勢との競争激化で

2003年11月24日(月) 読売新聞 朝刊 8面

記事概要

 シャープは2003年11月23日、液晶の技術開発競争に勝つ目的で、2004年3月までに液晶技術者を(最大)150人中途採用する方針を明らかにした。今年度の技術者全体の中途採用が30人だったことを勘案すると、画期的な方針変換である。背後に「日本だけでなく欧米諸国でも液晶の需要が高まり、韓国・サムソン電子などとの競合が益々熾烈になる」という認識があると思われる。

文責:清水 佑三

技術者を制するものは市場を制す

 シャープの社名の由来は、(衆知のとおり)早川式繰り出し鉛筆につけられた「シャープペンシル」という製品名にある。私もその銀製のレプリカを0.7ミリのペンテルの替え芯でずいぶん長く使ってきた。売り出された1915(大正4)年当時の価格は、金張りで7円、銀製で3円、ニッケル製1円だったそうだ。あるものを長く愛用すると、それを作ってくれた会社に自然と愛着がわく。私の周囲にシャープ製品が多いのは、この一本のシャープペンシルの力である。

 ところで、この記事によれば、シャープは来年の3月までに、液晶技術者150人を(キャリア)採用するという。狙いは、優秀な液晶技術者の囲い込みにある。それができれば、競合他社とのシェア競争で、今よりもさらに優位にたてる、と読むからである。

 知的所有権の囲い込みの時代からさらに一歩時代の流れが上流過程に遡り、知的所有権を生み出す専門技術者の囲い込みの時代に入ったとみるべきだ。その囲い込み競争の帰趨を決めるものは何か。条件・待遇であろうか、ノーである。

 最終的に、経営者の哲学が問われる。技術者が期待する経営哲学は、かつてのソニーの井深大さんが起草したといわれる東京通信工業株式会社の設立趣意書の次の一文に要約されるとみる。

「極力製品の選択に努め技術上の困難は寧ろ之を歓迎、量の多少に関せず最も社会的に利用度の高い高級技術製品を対象とす、又単に電気、機械等の形式的分類はさけ、其の両者を統合せるが如き他社の追随を絶対許さざる境地に独自なる製品化を行ふ」

 原文は旧字体、旧仮名遣いで、カタカナ漢字混交文である。それをひらがな漢字混交文、現代表記に直した。上の一文の内容を分解すると、

  • 技術上の困難は寧ろ之を歓迎
  • 最も社会的に利用度の高い
  • 高級技術製品を(会社は)めざす
  • 電気、機械等の形式的分類はさけ
  • その両者を統合せるが如き
  • 他社の追随を絶対ゆるさざる境地に(たって)
  • 独自なる製品(開発)を行ふ

 技術者はこうした「結社の精神」に魅かれて動く。シャープが目に見える企業行動において技術者マインドの取り込みに成功したら、今回うちだした液晶技術者の囲い込み大作戦は成功するだろう。一にもニにも、「結社の精神」を履行する経営者の志の高さと力に技術者の関心は注がれている。

コメンテータ:清水 佑三