人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

中電サービス残業
「昇給・昇進気になり…」
社員 申告控えに自戒の念

2003年9月20日(土) 中日新聞 朝刊 38面

記事概要

 中部電力は、指摘されていた「サービス残業」問題で2003年9月19日午後、松浦憲一人事部長が記者会見を行い「仕事の量が増えれば時間外をきちんとつけるように指導していた」と語り、「実際の勤務時間と会社記録との食い違いについては社員の自己申告によるもの」と述べた。会見は40分間に及び、報道陣の間から「人員削減などの合理化による労働強化が一因ではないか」という指摘もなされた。一方で、会社側の対応に理解を示す社員の声も聞かれた。

文責:清水 佑三

「サービス残業」についての貴重な筆致

 中部電力の労基署是正勧告関連のニュースは、9月20日に各新聞社がとりあげているが、この中日新聞の記事が一番おもしろい。日本株式会社の広報紙のような日経新聞は事実報道だけで、中日新聞のような社員の生の声などは載せていない。地方紙の雄としての貫禄を見せてくれた。

 記事中、以下のコメントが注意をひく。

「たとえ二時間かかっても同僚なら10分間で済む仕事である、と考えれば「残業は10分間」と報告する心理が強い。」

 この心理は間違っているのだろうか。よくわからない。

 現行の労働行政は、この間の機微については関心を持たない。日本のすべての企業において、かりに同僚が10分でできる仕事を2時間かかって行った者が1時間50分の時間外賃金を受け取るとしよう。国際競争力という観点でハンディをもたないか。また、10分で済ませてしまう人に自分を近づける努力は最前線において行われるだろうか。さらに、10分でできる人は納得するか。

 9月19日午後に行われた松浦人事部長による記者会見についても中日新聞記者の筆致は「糾弾」「断罪」のニュアンスをもたない。以下のような文章がそれを示す。

「会見は約40分間に及び、報道陣の間からは、人員削減などの合理化による労働強化が一因ではないか、との指摘もなされた(指摘というよりも詰問に近いものだったと筆者はみる)。松浦部長は終始淡々とした表情で労基署の是正勧告や社内調査などについて説明。大いに反省しています、と話して会見を切り上げた。」

 たったこれだけの文章から記者の心情を穿つのは「過剰解釈」の謗りもあろう。しかし売文を一つのナリワイにしている筆者には文章の書き方の工夫はよくわかる。記者は万感の思いを託して、「終始淡々と」と書き、「大いに反省していますと話して会見を切り上げた」と書いたのだ。この筆致にあらわれた記者の心情を「武士の情け」という。

 最後にしめくくりで書いた文章も記者の価値観がよく出ている。

「午後六時すぎ、中電本店から退社してきた技術系男性社員(30)は、「残業をすべてつければいいとは思わないが、今回は度を超していた。過去の実態を申請するように言われており、会社の対応には納得している」と話した。」

 この文章でこの記事をしめくくっている。魔女狩りに加担したり、企業性悪説に加担する印象はまったくない。よい記者だと思う。今後の健闘を祈る。

コメンテータ:清水 佑三