人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

クボタ、新職務系列
一般・技能職に管理職への道
希望者に選抜試験

2003年8月25日(月) 日本経済新聞 朝刊 11面

記事概要

 クボタは、管理職への道を閉ざされていた一般、技能職に管理職への道を開く新しい職務系列「ビジネス職」を新設した。ビジネス職制度の対象は約930人の(女性中心の)一般職と技能職約440人。従来の人事制度のもとではこれらの人たちは管理職昇進試験を受けることは不可能だった。ビジネス職の社内的な位置付けは一般職と総合職の中間で、試験に合格すれば総合職、管理職になれる。優秀な一般社員のやる気を引き出すことが狙い。

文責:清水 佑三

古きよき日本企業における変容

 創業100周年で社名を株式会社クボタに変えた、旧、久保田鉄工所は、創業者久保田権四郎が掲げた「自分の魂を打ち込んだ品物を作りだすこと」を今なお大事にしている日本型の古きよき会社の一つだ。水道用鉄管、農工用エンジン、工作用機械の分野では圧倒的な強さを誇る。

 そのクボタについて書かれたこの日経の記事は、日本の産業の発展に貢献してきたいわゆる「日本型企業」の人事制度について多くの情報を提供してくれる。

  • 従来の総合職→管理職のほかに、一般職→ビジネス職→管理職という新職務系列をつくる。
  • 一般職採用者の10%、技能職採用者の大半を新「ビジネス職」に移行させる
  • 新「ビジネス職」へ移行させる技能職は営業、サービス、工事等に従事する技能職採用者
  • 「ビジネス職」は意欲があって能力が高い層と定義し、試験制度で移行を行う。
  • 新ビジネス職は月俸制をとり、賞与は成果によって上下9%の差をつける
  • 一般職で入った人が新人事制度のもとで管理職につける最短の年齢は42歳となる
  • (従来は一般職入社者は「実務職1級」までで総合職や管理職への登用は閉ざされていた)
  • 新人事制度では管理職を三種に細分化し従来型の部下をもつ種を「マネージャ職」と定義した。

 多分、クボタは、(時流という)バスに乗るという意味では、決して早くない。この記事から気づくことをいくつかあげてみる。

  • 「ビジネス職」という名前にすべてがこめられている。一般職、技能職で採用した人の中に、ビジネスセンスをもつ人がいる、ビジネス(商売)やマネジメント(管理/経営)をやってもらってよい人がいる、こういう人を活用しない手はない、という認識に違いない。
  • 一般職から「ビジネス職」への登用は、多くの大企業がとっている一般職→総合職への昇格と共通する。10人に一人を選抜するのであるから、まさに意欲があって能力が高い層を選ぶ。
  • 一方、技能職から「ビジネス職」への登用に、クボタらしいユニークな視点が見える。こちらは大半の技能職採用者を「ビジネス職」に移行させるとある。
  • どういう人を「ビジネス職」にあげないか、そこに興味がある。
  • 記事からの推測であるが、営業的、対人的な能力に欠ける人を意識しているのではないか。一言でいえば、工場の外に出して、顧客に会わせることを(会社が)ためらう人だ。

 以上のことから類推するに、「自分の魂を打ち込んだ品物を作りだすこと」という創業者の精神にプラスして、それをよいビジネスにつなげること、が新しい社是に加わったとみる。認識は行動を規定する。クボタの将来に注目したい。

コメンテータ:清水 佑三