人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

シアトルマリナーズ
アシスタントトレーナー 森本貴義さん イチロー支えるプロの手腕

2008年02月26日 電気新聞 朝刊 14面

記事概要

 オリックス時代から今に至るまで、イチロー選手の活躍を支えてきた日本人トレーナーの森本貴義氏。シーズンの間はもっぱらイチロー選手につき、彼が不測の怪我をしないようにするために体のコントロール、バランスの向上など、自分の体を乗りこなす方法について、具体的にアドバイスする。シーズンオフは関西電力グループが運営する日本唯一のメディカルフィットネスクラブで、幅広い層に体の正しい使い方を指導する。今回、森本貴義さんに、プロのトレーナーが見た、一流選手が一流選手であり続ける理由や、医学的な角度を加えたフィットネスの効用等について聞いた。脅威的な結果を出し続けるイチローの技術的な側面については多くの野球関係者の指摘があるが、長期間、つきっきりでイチローのトレーナーを務める人ならではの価値のある指摘が聞けた。(聞き手、藤田忠)

文責:清水 佑三

一流選手と凡夫との違いは?

 メチャ面白いインタビュー記事である。

 長い年月、一流選手の暖簾を張っている野球選手の共通項がものの見事に観察されている。野球選手に限らない。すべての世界に共通する名人名工の分析だろう。

 このインタビューを行った藤田忠さんに感謝しつつ、卓越した1トレーナーが実体験し、観察してきた「一流選手の特徴」を紹介したい。

 2軍で終わる選手と一流選手の違い

 (2軍で終わる選手)

  • 2軍で終わる選手の練習は「練習のための練習」になってしまっている。
  • 見ていて練習を楽しんでいる感じがない。
  • 練習をストレスに感じているのがよく見える。
  • 練習メニュー一つひとつの意味について関心がない。

 (一流選手)

  • 野球が好きで好きでしょうがない、練習を見ていてそう感じる。
  • だから時間をかけられる。彼らにとって時間をかけることは苦痛ではない。
  • どんな練習メニューでもその意味についてよく理解して臨んでいる。
  • 与えられた練習メニューではなく、自分なりの工夫をして、集中してやる。
  • 必ずレベルアップさせる、という意志をもって練習している。

 (一流だが活躍期間が短い選手)

  • スランプに陥ったときに、そこから這い上がってこない。
  • せっかくいいものを持っていても、そこでつぶれてしまう。

 (一流選手で活躍期間が長い)

  • 10年以上安定してトップにいる選手は、アクシデントの打開策を知っている。
  • 日ごろから、それに対する備えをもっている。リスクマネジメントといってよい。
  • 結果的に致命的な怪我や故障と無縁でいられる。

 (超一流といえるイチロー選手は)

  • 身体的にこの2年でさらに進化した。
  • 具体的にいうと、脚が速くなった。
  • 上半身の軸がぶれない走法を身につけた。
  • 股関節の使い方が他のどの選手よりも上達している。
  • 年齢が50歳になっても力みがまったくないので怪我や故障は想定しにくい。
  • 彼がいうとおり、50歳で活躍する野手が誕生する可能性が高い。
  • 彼の特徴は誰よりも野球が好きだということ。
  • 彼の目線は生物学的にどこまでできるかにあり、金銭のようなモチベーションはまったくない。
  • 野球人として最高の位置に立ちたいという意志の強さは誰よりも強い。自分にはできると確信している。

 同じことはビジネスマンにも言えるだろう。

 わずかな行数の記事であるが価値がある。

 野球選手以外が野球選手を観察して得た知見は鋭くまた納得性が高い。

 ハイパフォーマー形成の秘密が、スローモーションカメラで捉えられていると感じた。もっともっと考えてみたいテーマだ。

コメンテータ:清水 佑三