人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
北九州市
「女性活躍」男性中心に議論!?
推進本部設置、女性は2人 識者は実効性疑問視
2008年2月21日 西日本新聞 朝刊 28面
記事概要
北九州市は二十日、北橋健治市長を本部長とする「女性活躍推進!本部」を設置すると発表した。女性職員の幹部登用に向けた行動計画の策定がミッション。本部のメンバーは21人。そのうち女性は麻田千穂子副市長を除けば、広報課長ただ一人。10%に満たない。市の男女共同参画基本計画では、審議会等のメンバー構成について女性メンバーの割合を40%にする目標を掲げているが、「女性活躍」をテーマにした新組織であるのに、目標とは大きくかけ離れた結果になった。市人事課は、この男女の割合について「人材育成がテーマなので、その権限を持つ部署の幹部を選んだ」と説明している。同時に「女性の視点も大事なので意見を聞く機会を設けたい」としている。九州女子短大の平田トシ子教授(ジェンダー論)は「女性の視点を生かすなら、会議の規模から最低でも五人の女性職員を入れるべきだ。市役所には優秀な女性職員が多いのになぜか。」と話す。他の識者からも実効性のある計画ができるのか疑問視する声も出ている。
文責:清水 佑三
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実効性のある女性幹部登用プランとは
コメンテータ:清水 佑三
国家、地方公務員に限らない。大小の規模を問わず、おおくの企業において、社員の男女バランスと幹部の男女バランスは天と地ほどに異なる。
管理職研修を引き受けているとそれがよくわかる。管理職上位層対象の研修ほど、女性の姿が見えない。一人もいないという場合も多い。
女性対象の商品やサービスを製造・販売している企業においても、その傾向性は変わらない。女子スポーツチームの監督、コーチがおおかた男性であるのと同じ。女性に適任者がいないから、が理由だ。
記事にある北九州市の場合は、メンバーを人選した市の人事課の立場と、識者の立場は次のように対立する。記事のコメントからの筆者の忖度も含まれる。
(市の人事課の主張)
(識者の指摘)
どちらが正しいかという“or”型議論は不毛である。両方の要素を“and”で止揚する視点が重要だ。以下“and”で止揚する視点づくりに挑戦する。
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■女性職員の幹部登用推進は人材育成問題か?
筆者の意見は「然り」である。
幹部ポストにチャレンジする女性職員が多ければ多いほど、結果として組織内の女性登用は推進される。幹部に登用されるためには登用試験という関所がある。現状は、笛吹けど、(女性職員の多くは)試験を受けてくれない。どうやって受けてもらえるようにするか。
難関大学を目指す人を増やすのが中高一貫校の課題である。企業場面においては、難度の高い仕事に挑戦する人を増やす、イコール人材育成問題といってよい。この視点は原則的であり、看過できない。
仕事の意味と価値をうまずたゆまず説き、仕事経験を通して「おもしろみ」を実感させる周囲の絶えざる営みが人材育成の本質である。幹部登用問題もその範疇に含まれる。
■女性職員を幹部登用推進本部のメンバーに多く入れるべき理由は?
女性にのみ与えられている子供を産むという幸福は、人類普遍であり、不可侵性をもっている。その幸福を視野に入れたときに、(たとえば)係長ポストを狙う選択肢は多くの女性職員には思い浮かばない。周囲を観察していて、どうみても間尺に合わないからだ。
仮に、この認識が現実を一定程度描写できているとして、次の問題は、どうすれば間尺に合うように現実の方を修正できるかだ。間尺に合わないと感じる女性職員の意見を聞くことが最重要だ。そうすれば、次の二つの課題が浮かび上がってくるだろう。
■女性にとって魅力ある係長ポストを増設する
女性職員にとって“おいしい”係長ポストがあれば、チャレンジしようと思う人は増える。“おいしい”ポストとは何か。
自分の持ち味、関心を生かせる、が最も大事だ。女性性がもつ持ち味は何か。日本エス・エイチ・エルの研究によれば次の三つだ。
1)パーソナビリティ(人あたり)
パーソナビリティとは、名物旅館のおかみがもっている態度、姿勢、仕草、声、ものの言い方などのやわらかさをいう。相手が誰であってもどういう場面であっても(相手を)いらだたせず相手の心をなごませることが男性よりもできる。
2)プレッシャーへの耐力
環境の変化、悪化によって自滅しない能力。長寿力とほぼ同じ。多様な幸福をてもとにおき、ひとつの幸福が破綻してもほかの幸福によって、すぐリカバーできる。結果としてつねに一定の平衡(恒常性)を維持できる。
3)オーガナイズ能力
何とかやりくりして辻褄をあわせてしまう力。男性のように短絡的に行動に走らない。縦横斜め、前後左右をよく観察して、瞬時に頭の中でシミュレーションできる。ラジオをきき、携帯で友達と話しながら、手際よく料理を仕上げてしまうような段取りのよさ。
ここから演繹できるのは、女性の持ち味を生かせる仕事として、市民と行政をつなぐ「相談センター」「コールセンター」的な部署が思い浮かぶ。それを大増設すればよい。
この機能がしっかりすれば、全部署でみられるたらいまわしのような不作為の“ていたらく”は回避できる。行政の効率が格段によくなる。昨今の金融界は、右に倣えのようにして、この顧客とサービス部隊をうまくつなぐトランスミッション機能の充実に挑戦している。
「相談センター」「コールセンター」等は、女性職員中心がよい。係長は女性であるべきだ。
■登用プロセスの改訂
筆記テスト中心の登用試験は、それが必要な部署だけに限定すべきだ。何かと気ぜわしい生活の中で、「これを覚えて何になるの?」という記憶作業に取り組むのは時間の無駄だ。現実的な女性は特にそう考える。
筆記テストをやめてしまい、面接中心で登用すればよい。
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北九州市の人事課の視点とそれを批判する識者の視点を、平行線として捉えてはならない。それが企業における人事制度設計の要諦である。
いくつかの矛盾する価値を「止揚」する“and”の視点を創出することが大事だ。
本稿では、それを箱庭規模で実演したと思っている。