人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
ジョンソンコントロールズ
職種選択 技術者の意向尊重
入社3年で全実務経験 スペシャリスト処遇も
2008年1月17日 日刊建設工業新聞 朝刊 3面
記事概要
外資系設備大手のジョンソンコントロールズは、今年4月入社の技術系社員を対象に、新しい人事制度を創設した。内容は、入社3年で技術5職種全部を経験させ、4年目から本人が選択する職種に就かせる技術者育成制度と、技術者全員が管理職を目指すのでのではなく、スペシャリストという立場で、社内等級が上がる複線型の昇進制度を新設することの二つ。設備業界では、技術系社員の採用が難しくなってきており、さらに若手社員の離職率が高くなってきている。離職者の中には、自分がやりたい職種がわからないまま仕事に就き、仕事が自分にあっていないと判断して職を離れるケースが少なくない。3年間で技術5職種をローテーションさせる新しいやりかたはこのミスマッチ問題に対応したもの。また、従来のように、入社後一職種だけで育ててしまうと、設計図が書けないプロジェクトマネジャーが生まれる危険がある。新制度はこうした問題への解決にも役立つと期待される。別な問題として、技術系社員には、部下の管理や育成といった対人的なことは苦手だが、専門的な技術には秀でている社員がいる。これまでは管理職にならないと社内等級があがらず、彼らを社内的に低く扱っている傾向があった。スペシャリスト処遇制度はこうした弊を改め、専門的な技術者を重視する姿勢を社内的に明確にしたものである。
文責:清水 佑三
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「技術総合職」という新しい視点の導入
コメンテータ:清水 佑三
ジョンソンコントロールズは、米ウィスコンシン州ミルウォーキーに本社があるJohnson Controls、Inc.の日本法人である。
Johnson Controls、Inc.は、115年以上の歴史をもつ“ビルオートメーションのグローバル・マーケット・リーダー”である。世界575ヶ所以上に拠点をもち、全従業員数は14万人を超える。
昨年度のグループの年間売り上げは、346億ドルに届く。この17年間、増収増益記録を更新しつづけている優良大企業だ。
日本法人のジョンソンコントロールズ株式会社(以下、JC)は、1971年に設立され、現時点での従業員数は1200人余、事業内容は多岐にわたるが、空調制御用機器、自動制御機器、冷凍機器などの設計、販売、施行、保守等を主要事業としている。ビル管理システムを一括請け負う点にも特徴がある。
日本で設備業界と呼ばれる分野の雄であり、業種は異なるが、ボッシュ、BASFジャパン、テュフズードジャパン、TI Automotive Japan、リア コーポレーションなどと並んで外資系メーカーのトップランナーの一角を占める。
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設備業界を支えるのは技術系社員である。中でもプロダクトマネジャーと呼ばれる職種層に厚みをもつことが各社の最重要課題になっている。設備業界のプロダクトマネジャーの職責は、IT業界におけるSE(システムエンジニア)によく似ている。次のような要件が求められる。
(対顧客)
(対現場作業員)
(対会社)
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プロダクトマネジャーは、JCの技術5職種の一つである。新人が、自由選択でプロダクトマネジャー職に就くことを希望したとしよう。小学球児がプロ野球のグランドに立つようなもの。海千山千の協力会社の現場作業員になめられるのがオチである。仕事にならない。
ではどうしたらよいか。JCが考え参考にしたのは、日本企業の多くがもつ“総合職制度”である。これを技術系社員に応用する。総合職制度とは、仕事人生すべてを託してくる新人たちを預かって、よき管理職に育て上げることを狙う定期的異動システムであり、長期教育システムの別名である。
このことに関連して、次のような記述が記事中にある。
…(入社後)3年のステップアップ期間で5つの職種を経験させる。この3年は教育訓練的な意味が強い。
…3年後には面接し本人が就きたい職種を把握。希望する職種で次のキャリアアップ期間(2〜3年)に進む。
…ここで本格的な実務教育を受ける。
…キャリアアップ期間を終わった後、仮に本人が別の職種を希望した場合、その職種に移ることも可能だ。
この考え方は総合職制度におけるローテーション制度と変わらない。一点だけ違いをあげれば、一般企業の総合職に比べ、JCの制度においてはより技術者本人の意向が(異動時に)尊重されていることだろう。
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JCは今までなかった「技術総合職」という新しいマネジャー育成概念を創造したとみる。必要は発明の母、を地でゆくような感じだ。設備業界が、技術系社員の採用に苦しみ、かつ採った後の離職率の高さに苦しんだゆえにこうしたアイデアが生まれたのである。
筆者はこの考えかたを“コロンブスの卵”とみている。技術者が多い企業における“マネジャー育成難”の悩みを一挙に解決する曙光、糸口があるとみる。技術総合職に目をつけたところがミソだ。
(技術総合職)
野球に喩えれば、職種ローテーションは、投手、捕手、内野手、外野手をすべて経験させるようなもの。それぞれのポジションでの仕事のコツのようなものが体得されてゆく。どういう職種でどういうコツが身についてゆくか。技術総合職の職能獲得のイメージをデッサンする。
営業に近い職種経験
技術者の中には、顧客との接点がまったくない職種に就く人も多い。その逆に、営業からバトンタッチを受けて、技術的な話題で顧客とたえず接する職種に就く人も多い。顧客と一口でいっても、いかにそれが多様で、相手によって考え方を変えないといけないか、経験すればするほどよく見えてくる。知らないがゆえにいろいろと注文をつけるのが顧客なのだ。この経験は貴重だ。
現場に近い職種経験
現場の作業員の中には、外国人も含まれる。日本語の読み書きができるとは限らない。そういう作業員が、指定どおりの動きをしないことがある。彼らの上司にあたる現場監督がそこにいない。放置できない。JC社員として、直接、外国人作業員に話しかける。いくら言っても通じない。この経験が貴重なのだ。窮すれば通じる、でだんだん彼らを使うコツがわかってくる。
管理に近い職種経験
一軒の家を建てるときの大工の棟梁の仕事は、複雑で多岐にわたるもの。図面、工程カレンダー、予算表、出入りの職人リスト等がてもとにある。何か一つが狂うと全部に影響するのが普請なのである。見込み違いのことが起こったときに、瞬時にシミュレーションを行って、全体計画に修正を入れないといけない。手痛い失敗を繰り返し、これもまた次第にコツを覚えてくる。
こうした多様な職種を経験してゆくことで、大工でいえば棟梁という仕事がじつに面白い、大事な仕事だということがわかってくる。こうした経験知の上に、プロジェクトマネジャーをやりたいと考える人が生まれてきたとする。
こうした人たちが会社を支えるコア人材に育ってゆく。技術者をマネジャーに育てるのは難しいという声が多いが、JCが考えたように大胆な職種間異動を繰り返すことで、実は可能なのではないか。
JCの新しい試みは大いに注目されてよい。