人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

昭和電工
新人事制度を導入 専門能力を持つ人材を優遇

2007年12月5日 鉄鋼新聞 朝刊 6面

記事概要

 (総合化学の)昭和電工は、来る1月4日付けで「コーポレートフェロー制度」と呼ぶ新しい人事制度をスタートさせる。新制度は、高度の専門技術と知見をもつ技術系社員を優遇する従来の「技監制度」の考え方を、事務系社員にまで拡大させたもの。会社にとって欠かせないと判断されるすべての領域での専門能力保有者へのインセンティブ制度の意味あいがある。執行役員待遇の「シニアコーポレートフェロー」とそれに準ずる「コーポレートフェロー」の二つがあり、その認定は、毎年1月の営業開始日に行われる。フェローは、既得権的な社内資格ではなくゼロベースで毎年、見直される点に特徴がある。選任対象職種として、「研究」、「技術開発」、「生産技術」、「技術スタッフ」、「事務スタッフ」、「専門性を求められるライン長」、「高度な公的資格を保有する社員」などがある。

文責:清水 佑三

社内を勲章バッジをつけて歩かせる

 昭和電工は、旧安田系の総合化学メーカーで、来年創立100周年を迎える伝統企業である。長らく重厚長大企業のイメージがあったが、近年はまったく違う変身を遂げつつある。

 電子・情報の売上構成比が連結ベースで全売上の2割近くまであがってきていることが象徴している。

 アルミニウム事業と化学メーカーとはイメージが重ならないが、昭和電工は日本で初めてアルミの精錬を手がけた会社なのである。これも面白い。

 また、電気製鋼炉用の人造黒鉛電極分野では他社にない強みを発揮している。我々になじみが深いハードディスク分野では、密度記録向上技術で世界トップの水準にあり、外販首位の地位を譲らない。

 昭和電工は、脱総合化をめざして、いま、全社一丸になっている印象を受ける。

 昭和電工の過去の歴史、将来ビジョンを頭の片隅において、この記事を眺めると、やはりいくつかのユニークな切り口が見えてくる。

 それぞれについて筆者の意見を書いてみたい。他社に見られない(フェロー制度の)特徴のようなものが浮かび上がってくる。

***

 (任期を1年に区切ったこと)

  • 職能等級制度ではなく、褒賞(インセンティブ)制度であることが明確に分かる。
  • 職能等級制度の枠組みだとどうしても既得権化する。
  • 褒賞制度であれば、偶々、専門性の発揮が大成果となった場合でも対象にできる。
  • 翌年、認定が与えられなければ「不名誉」。連続認定に向けて精進する気持ちに自然になろう。
  • ラグビーでいえば、日本代表のキャップをいくつ持つか、それが目標になる。

 (職種を事務系に広げたこと)

  • 元々フェローシップ制度は大学の研究者で若手優秀者を抜擢、支援するためのものだった。
  • 企業という場で、高度の専門性と知見を称揚するというとどうしても「技術系」に目がゆく。
  • 事務系にまで対象を広げたことは画期的である。
  • 法務に関する知識、知見、センス抜群の社員が仮にいたら、囲い込まない手はない。
  • こういう社員にスポットライトをあてることはよいことだ。

 (高度な社会的認知を受けた人に手を差し伸べたこと)

  • 島津製作所はフェロー制度を作って(ノーべル化学賞の)田中耕一さんをフェローに認定した。
  • 同じことがどこの会社でもありうる。
  • 高度な公的資格を保有する社員、とはそういう意味だ。
  • 社長賞とフェロー認定とは受け取る側の意味あいが異なる。
  • 「高度な社会的認知を受けた人」を対象にするのは妙案である。

 (シニア、ジュニアの二区分を設けた)

  • シニアフェローとシニアがつかないフェローの二層立てである。
  • 後者をシニアと対比させてジュニア認定者と呼ぶとすると、ジュニアは社内で特に目立つだろう。
  • 野球でいえば、その年度に大活躍した新人賞と同じだ。一生ついて回る名誉である。
  • 技術、事務を問わずスペシャリストの世界は、若手でも異能を発揮する人がいる。
  • 若手スペシャリストをうまく囲い込まないとサーチ会社の人が目をつけて引き剥がされる。

 (シニア認定者は執行役員待遇)

  • 部門長だけが執行役員になる、は専門領域に集中して仕事をする人には辛い。
  • 仮に部下がいなくても、高度の専門性、知見、成果をもてば執行役員と同じ年俸が貰える。
  • それによって意欲づけられる人はたくさんでてくるだろう。
  • シニアフェローによって生み出された成果物を会社が上手に運用したとする。
  • 執行役員と同じ年俸を払っても決して損はしない。

***

 あらゆる人事制度は、表と裏をもつ。上で述べてきた「強み」はある日、気づくと「弱み」に変質しているもの。

 次のような運用法を考えておくと制度疲弊のリスクは少なくなるとみる。

 1)認定時に、大相撲の殊勲、敢闘、技能賞のように認定回数を(  )づけで示す。

 認定回数が増えるほど勲章の価値が増す。二年続けて認定を受けれなくても、その次の年に頑張ればよい。このやりかたは、安倍晋三が唱えた敗者復活がある社会に呼応する。

 2)ジュニア認定の回数が一定以上になった場合、シニア認定の資格をもつという内規を用意する。

 一部、二部の入れ替えをイメージするとわかりやすい。二部でよい成績を継続してあげれば一部に昇格できる。ジュニアで一定回数以上の認定を受けた場合、シニアにエントリーできるようにすればよい。

 3)認定された場合の年収は、認定を受けなかった場合の年収の最低でも倍とする。

 認定されなかった場合に、年収が元に戻るリスクはあるが、年収を倍にする案は、潜在的に優れている専門技能者を奮い立たせるだろう。どういう発明、発見が生まれるか。社内に活気が出る。

 4)ガイドラインとして「原則一年限り」を謳う。

 認定時の基準で、連続認定はないよ、をあらかじめて謳っておくと、翌年認定されない場合でもトラウマをつくらない。逆に、連続認定を受けると名誉は飛躍的に高まる。

 5)認定者には「品のよい」バッジをあたえ、常時着用をお願いする。

 社長賞ともっとも違う点はこの部分だ。フェローが勲章であることから来るアイデアだ。バッジをみて家族は夫を父を誇らしく思うだろう。同僚たちも、自分もあのバッジをと考える人が出てこよう。「品のよい」は言葉の綾であるが、小さくデザインのよいものを金をかけて作るとよい。

 この制度の今後をフォローしたい。昭和電工の伸びをこの制度は作るのではないか。

コメンテータ:清水 佑三