人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

教育が変わる eラーニング事例から(3)
三洋電機 新人事制度を短期間で認知
役職者から始めて効果

2003年6月26日(木) 日本工業新聞 朝刊 5面

記事概要

 三洋電機は社員教育に積極的にeラーニングを活用している。2001年春の抜本的な人事制度改革の際に、新しい人事制度を短期間で社員に認知させる必要に迫られたのがきっかけである。「約4000人の役職者からeラーニングをスタートさせた。これが結果的に社内でのeラーニングへの抵抗をなくすことにつながった」とこのシステムを推進したグループ企業のコンサルタントが語っている。普通は抵抗勢力になるグループを推進勢力にしてしまったのだ。いい加減な学習では研修を修了できないeラーニングの社内定着は、教育改革と呼んでよい成果をうみつつある。

文責:清水 佑三

eラーニングの上手な活用法

 自動車学校(ヘンな名前だ)では、実技と学科の両方を教える。学科については、近年、eラーニングシステムを導入している学校が増えている。この記事にあるように、全問正解しないと次章に進めない仕組みを取れば、全問正解できないタイプの人は、自分から免許取得をあきらめる。

 管理職に必要な能力についても、実技と学科の両方があるように思える。学科とは、一言でいえば(自社の)構造と法規について熟知していることである。管理職がある判断をする場合、その二つを熟知している人とそうでない人の選択肢は変わってくるだろう。優秀な学卒新人が、すぐに管理行動をとれない理由の一つにそれがある。

 一方で管理職に必要な実技がある。実技とは、文字通り「その場で結果を出す」技能である。たとえば、難しい相手との交渉や、潜在顧客多数を前にしたプレゼンなどが思い浮かぶ。どんなに構造や法規に通じていても、まったく役にたたない。

 一般にeラーニングは実技よりも学科の習得に向いているといわれている。三洋電機の事例紹介についても次のような点に注意して読むとよい。

  1. 年俸、処遇などの制度改定のタイミングをとらえる。(やらざるを得ない)
  2. 若い人からではなく、上位者から順にスタートした。(やらざるを得ない)
  3. 「考課者訓練」という管理職にとって必須のテーマを選んだ(実益が期待できる)
  4. 全問正解しないと次に進めない「強制装置」を組み込んだ。(まじめに取り組まざるを得ない)
  5. 傾向と対策を用意させない「シャッフル装置」を組み込んだ。(まじめに取り組まざるを得ない)

 この仕組みをデザインした人は、人のなりたちをよく知っている。どうすれば人は行動するかの原理原則を踏まえている。原理原則を要約すれば次の3点になる。

  1. 行動しないと自分の立場が危ない、という状況をつくる。
  2. やればやっただけ自分に返ってくるものがある、という動機を与える。
  3. ズルをしようとしてもできないように全体ができあがっている。

 これはeラーニングの浸透の問題に限らない。ありとあらゆる「新しい制度」の浸透、定着において共通する問題である。そういう角度でこの記事を読むと、いろいろな示唆を受ける。

コメンテータ:清水 佑三