人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

NECソフト
プロジェクト終了後に一斉休暇
職場パトロールで“定時退社奨励”

2007年7月10日 日刊工業新聞 朝刊 9面

記事概要

 IT業界の勤労実態は“3K(きつい、気が休まらない、帰れない) ”と揶揄されるが、そういった負のイメージを作る元凶に「多すぎる時間外労働」があるとみて、このほどNECソフト(東京)は、人事労務部などによる定時退社を促す職場パトロールを開始、同時にプロジェクト終了後の休暇制度を導入した。「職場パトロール」はこれまでやってきた社内放送による定時退社の呼びかけをさらに一歩進めたもので、腕章をつけたパトロール隊が各事業部を巡回して現場社員に定時退社を促す。「プロジェクト休暇制度」は、業界の特性としてプロジェクト単位で業務がまわることに注目し、プロジェクトに係わった社員全員にプロジェクト終了後に一斉に会社ルールとして休暇を取らせる。こうした施策や制度の導入によって「人件費の削減だけでなく電気代などの光熱費も減らすことができる」(NECソフト)としている。IT業界が抱える過残業問題の解消に一石を投じそうだ。

文責:清水 佑三

プロジェクト休暇制度は“コロンブスの卵”

 IT業界の雇用吸収力に赤ランプが灯っている。新卒定期採用で募集定員割れを起こしている企業が多くなってきた。(採用層の)質を落として員数を確保する動きもある。

 理由の一つに(この記事では)業界の“3K”イメージをあげている。業界“3K”について簡単に述べて置こう。

(きつい)

 仕事の量、質、納期に対する要求が厳しく、つねに「未実現」状態に置かれる。サラ金返済に追いかけられる債務者のイメージに近い。どうしてそうなるか。社保庁の業務機械化に伴う「未統合データ5千万件」事件の後始末問題がわかりやすい。政治によって、先に国民に対する納期の約束が来る。IT現場の声は反映されず納期が決まる。何が何でもその日までにやり遂げなければならない。きつい状態が恒常化されざるを得ない。

(気が休まらない)

 行政サービスをする側は、国家という1単位である。サービスを受ける側も国民一人ひとりで1単位である。行政サービスは1対1のシンプルな構造をもつ。一人に一個の国民番号を振れば、行政事務の無理と無駄は少なくなる。SEは当然そう考える。ところが、発注者である省庁は、年金、健保、納税、住基ネット、パスポートなど違う番号を振れという。仕事を受託する業界は、氏名、住所等の不安定な情報で名寄せを強いられる。クレームが予見できる。そういう仕事をしていれば気が休まらない。

(帰れない)

 マンションの新築を考えるとわかりやすい。完成引渡し日は決まっている。建物だけを作っても人は住めない。その日までに電気、水道、ガス、通信等も使えるような状態になっていないといけない。どれか一つが欠けてもまずい。帰りたくても帰れない部隊が出る。IT業界が建築現場の性格をもつためだ。IT業界はもともと徹夜の突貫工事とセットになっている。

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 『日経ビジネス』(2007.7.9号)で吉越浩一郎(トリンプ・インターナショナル・ジャパン前社長)氏が、トリンプにおける残業との戦いについてコメントしている。

 NECソフトの努力に通じるものがあり、傾聴すべき内容を含むと思うので、引用させていただく。

…トリンプでは残業を禁止しました。

…女性従業員で成り立っている会社。彼らが働きやすい会社にしたかった。

…残業するな、と通達をいくら出してもダメだ。

…社長が体を張ることしかないです。

…早い話、社長が電気を消して回ればよい。

…業務に支障を来たすというなら、来たせばよい。

…本当に電気を消せば(支障を来たさないように)昼間必死になって仕事を終わらせる。

…残業申請してきたら一応、認める。

…そのかわり翌日、社長と一対一で反省会をやった。

…反省会がきついのでしょう、自然に申請は減っていった。

…要は、本当に社長に残業を減らす気があるかどうかだ。

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 NECソフトの事例の中で白眉とも言える「プロジェクト休暇制度」についてコメントしてこの稿を終えたい。

(プロジェクト休暇制度)

 プロジェクトが終了したら、プロジェクトメンバー全員が同じ期間、休暇を取る。

(この制度の意味と価値)

 海運会社では陸上勤務者と海上勤務者とで休暇制度が異なる。海上勤務者の場合、6ヶ月間船に乗ったら、たとえば2ヶ月の休暇をセットさせる。

 この制度とNECソフトのプロジェクト休暇制度はよく似ている。プロジェクト期間を、「特殊勤務」と見立てればよい。その期間は残業という概念をもたせない。安全運行する上で就業時間を区切れないようなものだ。

 労基行政がこうした考え方を認めるかどうかは別にして、海運会社の海上勤務者の休暇制度を準用すれば、ITで働く者のワーク&ライフ・バランスは一定程度、保障できる。

 プロジェクトの長さ、きつさに応じて事後の休暇の期間を制度として決めればよい。

 人間回復の制度である。業界イメージが変わってくるだろう。コロンブスの卵とみる所以だ。

コメンテータ:清水 佑三