人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
コロムビアミュージックエンタテインメント
データベースで異能社員を一発検索 適材適所に一役
2007年5月31日 日経産業新聞 朝刊 26面
記事概要
明治43(1910)年に創業されたコロムビアミュージックエンタテインメント(コロムビア)は日本の草分け的レコード会社の一つ。’04年に社長に就任した(日本IBM出身の)広瀬禎彦氏の目には「老舗企業であるがゆえのコロムビアの制度疲労は目を覆うばかり」と映った。例えば、ある事業が二年間進展しなかった原因を調べると、その業務を担当していた社員が退職した後、誰もその後をフォローしていなかった。広瀬社長は、「人に仕事がくっついている」「音楽事業がどんどん新しい方向に動いているのに、社員がそれについてゆけていない」とみて強い危機感を抱き、組織フラット化など数々の手を打ってきた。今年一月にスタートした人事データベース「BEAT(ビート)」もその一環。BEATとは、「元アーティスト」「スケボー得意」など、社員が過去の経験や自信のある分野、保有するスキルなどを自由記述できる社員ページをいう。映像ソフト部門の人員を増強したい場合、BEATを使って「映像」「ビデオ」で検索をかけると、「前職で音楽ビデオ編集の経験あり」などと書いた社員リストが一覧表示される仕組みだ。営業で伝票整理した契約社員が「元ヒップホップダンサーだった」ことがわかり、音楽制作部門へ異動する例など、過去には考えられなかった社内流動化がBEATによって促されつつある。老舗活性化のキーになる可能性がある。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
20万円の投資で社内が見違えるように活性化するかも
コメンテータ:清水 佑三
日本ビクター、コロムビアは洋楽、邦楽に多数の音源を保有する音楽系知財産業の双璧である。契約音楽家をもち「音楽」を複製して売る本業にプラスして、オーディオビジュアルの機械メーカーをめざしてから、ともに足取りが不確かになった。
コロムビアは日立(製作所)からリップルウッドへの株主変動にともない、’01年、機械メーカー部分の切り離しを断行、創業時の「レコード会社」に戻ってわかりやすくなった。
最近では一青窈のベスト盤CD(ベスチョ)が100万枚に届く勢いを見せ、それもあってかこの三月期で漸く単年度黒字を達成した。
他方、日本ビクターは機械メーカー部分が肥大化しすぎて立ち往生状態を抜け出せないままでいる。
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BEATの概要、運用やメリット等を紹介すると次のようになる。
(設備投資)
(入力)
(書き込まれている例)
「70年代の洋楽は詳しいです」
「英語はTOEIC920点」
「スケボーが得意」
「子どもが六人います」
「実は元アーティストでメジャー活動していました」
「前の会社では映像ソフトの販促を担当」
「音楽ビデオの編集の経験あり」
「音楽制作部門へ異動を希望」
(利用方法)
(メリット)
(課題)
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どんな制度もそうであるが、制度を生かすためには適切な土壌が要る。
社内流動化率の高さと適材適所実現度とは無関係ではない。社内流動化が促され、適材適所を実感する社員が多くなるほど、社員全体の「居心地の良さ」度はよりアップしよう。
あしたにでもよい転職先があれば、と考えている社員が大半であったとする。おそらく、入力される情報はほとんどデタラメになる。居心地の良さと書き込まれる情報の質はセットになっている。
音楽にさわれる喜びで生きている純粋系の社員が多いコロムビアの「居心地」度は、他の業界に比べて高いとみる。
多くの社員は他社に移ることを考える前に、自分の持ち味をより発揮できる社内の他の部署を希望し、その理由として自分が過去やってきたことや人には言わない特技、趣味などを書き込むだろう。
よい情報が書き込まれれば、会社としての打つ手の幅は広がるし、タイミングもあいやすい。
400人規模の会社において新システムで約20人が(この四月に)異動したという。わずかの投資で会社が見違えるように活性化する可能性がある。
音楽会社らしい面白くてためになる試みだ。