人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

西武ライオンズ
裏金 ’78〜’05年
アマ監督ら170人に謝礼 別の5選手に6160万円

2007年4月5日 毎日新聞 朝刊 1面

記事概要

 プロ野球・西武ライオンズのアマチュア2選手への現金供与問題で、球団が設置した調査委員会(委員長・池井優慶応大名誉教授)は4日、中間報告を発表。その中で、西武球団は、球団創立から球界が倫理行動宣言をした’05年までの27年間にわたって、ライオンズに入団したアマチュア選手の出身チームの監督ら(延べ)170人に1人当たり30万円から1000万円の謝礼を払っていたことを公表した。調査委は「今回の調査は個人を糾弾することを目的としていない」とし、選手や謝礼を受け取ったアマ関係者の氏名の公表は行わなかった。謝礼の支払いは、社長や代表ら管理職が正規の社内手続きを経て決裁し、通常の会計処理がなされていたと説明した。調査委の事情聴取に対して球団スカウトは「他球団も同じようなことをやっているのではないか。(それなら)遅れをとるわけにはいかない。」と答えたという。調査委はさらに調査をすすめ20日に最終報告をまとめる。(立松敏幸)

文責:清水 佑三

「コンプライアンス問題」の本質を考える上でよい事例

 西武裏金問題、調査委員会委員長の記者会見の模様はテレビニュースでも大きくとりあげられた。噂されていたことが明るみに出たという印象と同時に、どうしてこの時期に西武がここまで詳細に事実を明らかにしたのか、逆にそのことに関心をもった。

 ところで、このニュースの報道の仕方で朝日新聞と毎日新聞は微妙な違いを見せた。「コンプライアンス問題」を考えてゆく上でヒントがあると思い、筆者の見解に近い毎日新聞の記事をとりあげた。

 両紙の見出しとそれに対応する説明部分を抽出してみる。

朝日新聞(4月5日、朝刊17面)

西武裏金問題 社長以下支出決裁 アマ2選手分も公表 太田秀和球団社長「厳粛に受け止めている」

…(報告は)球団内での会計処理について、社長以下の管理職の決裁を得て仮払いとして計上していたとし、「社会的な不正を行うことを避けるより、社内的に資金を不正・不当に支出することがないことへの気配りを優先していた」とし、「コンプライアンスに対する意識の低さ」を指摘している。

…倫理行動宣言後の’05年10月まで金銭を渡していたことについては、球団で何回か中止するかどうかの協議が行われたとした上で、「企業のコンプライアンス(法令遵守)よりも清水選手側の経済的事情や支給の約束を優先させるという誤った判断」がなされた。

 注意したいのは、「社会的不正」「企業のコンプライアンス」という表現である。調査委員会は、社会的不正についての調査結果の中間報告をしたと捉えている。朝日の記事を読む読者は、西武が悪いことをしたと受け取るだろう。そのように書かれている。毎日は違う。

毎日新聞(4月5日、朝刊1面)

西武ライオンズ裏金 ’78〜’05年 アマ監督ら170人に謝礼 別の5選手に6160万円

…調査委が公表した中間報告によると、アマチュアの監督らへの謝礼は、現金か商品券で支払われ、年間500万円に上った。中には1000万円、500万円、410万円の高額支払いも1回ずつあった。高校、大学野球の監督や関係者への支払いは日本学生野球憲章に抵触するが、謝礼はアマ側から要求されることもあったと指摘している。

…学生を球団の練習に参加させるなどの学生憲章への違反も数回あった。

 毎日の立松敏幸記者は、記事の冒頭で「現金供与問題」という表現を敢えて使っている。裏金ではないことが報告されたためであろう。何が問題かという点でも明確な認識が示されている。

 日本学生野球憲章に抵触したのである。言外に、どのチームもやっているフライングを思い切って公表した姿勢を評価する、現金をせびるアマ側にも問題がある、というニュアンスがうかがえる。

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 一般大衆、特に野球好きは西武球団のアマ2選手への現金供与問題の自発的情報開示をどう受け止めたか。3月30日のパリーグ開幕日の試合前に、太田秀和球団社長は詰め掛けた満員のファンに対して謝罪の挨拶を行った。その時のファンの声援は報道によれば温かいもので「太田えらいぞお」「よくやったあ」というものさえあったという。

 現金供与問題の遠因とされている希望枠問題に固執した巨人の東京ドーム開幕戦はどうだったか。たまたま筆者はこの日、ドームに行って試合を観戦した。本拠地開幕日なのに満員にならなかった。長期低迷は依然として続いている。ファンは離れていっているのだ。西武ライオンズと対照的だ。

 ジャイアンツの清武球団代表のこの問題に対するコメント「希望枠をなくしたからといってトップに不正を許容する土壌があれば、どうにもならない」(朝日新聞)はあてつけのようで後味が悪い。

 希望枠に固執するジャイアンツに対してファンは冷たく、自らの過失を自らの責任で公表した西武に対して温かいものがあることを覚えておくとよい。大衆のブーイングによって企業は退場を余儀無くされるのだ。新聞報道ではない。

 コンプライアンスを考えるときに忘れてはいけない点がここにある。毎日新聞の記事のタッチは朝日の断罪タッチに比べより大衆の視線に近いといってよい。

 「コンプライアンス」とは何かについて考えるヒントが潜むように思う。

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 この問題に関係して3月27日の河北新報朝刊(29面)に次のような記事が載った。紹介しておきたい。

河北新報(3月27日、朝刊29面)

プロ野球裏金問題 専大北上高校長が辞職 現職教員介在で引責

…専大北上高は、西武から現金を受け取っていた元早稲田大野球部員の出身高。金銭授受に当時の野球部コーチの教諭が関与していたことがわかり、教諭は20日づけで懲戒解雇、黒沢校長らも譴責処分を受けていた。

…黒沢校長は「現職教員の介在が明らかになり、組織の管理職としての責任の重さを痛感した。今回の不祥事は現部員には関係がない。私の身に替えて日常的にクラブ活動ができるように切望する。」との談話を出した。

 河北新報記事にある(野球部員が)クラブ活動が続けられるように切望する、という談話の表現が気になる。誰に対するメッセージなのか。

 忖度するに、高等学校の野球全般について監督権限をもつ財団法人日本高等学校野球連盟(高野連)へのお願いなのであろう。

 諸悪の根元と筆者がみる高野連とはそもどういう団体なのか。日本学生野球憲章の高校野球の部に次のような表現がある。

…(第三章第十五条) 高等学校の野球は財団法人日本高等学校野球連盟が、日本学生野球協会の指導の下に、それぞれの都道府県の高等学校野球連盟を通じて、これを監督する。

 文部科学省所管の財団法人が高校生の野球について監督権限をもつ。野球部(クラブ活動)全般の指揮、監督権をもつと謳っている。

 以下は、野球好きでは人後に落ちないと自負する筆者の寝言のような繰言である。こういうふうにこの問題をみる人がいるという程度の話だ。

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高校野球の監督業

 名前が通っていない新興高校が、常勝監督を招聘し、自校チームの甲子園出場を目ざすのは自校の宣伝になるからだ。もっといえば学校ビジネスにつながるからである。常勝監督は甲子園出場を請負う個人事業主とみてよい。監督が教員免許を持たなければ、(学校は)職員として雇用する。

 甲子園に出場させることに成功した監督は(学校ビジネスにおいて)校長以上の貢献をしたと学校経営者から認められ、学校から多額の賞与をもらいうる。

 さて、常勝タレント監督が甲子園出場を狙う過程でプロが評価する選手を育てたと仮定しよう。個人事業主としては明らかに商機到来である。プロ野球球団への斡旋謝礼という収入を期待したくなる。たちはだかるのは日本学生野球憲章である。さてどうするか。金を出す側との共同謀議で知恵くらべになる。真っ正直にやった球団がボロをだして血祭りにあげられる。

建前と裏の道

 日本学生野球憲章では、学生が野球部員であることを理由に学費や生活費などの金品を受けることができないと定めている。(憲章第13条)契約の締結を条件とした契約金の前渡しについても認められないとしている。

 こうした学生への金品受領や機会参加への縛りは、学生だけではなく野球部の関係者(部長、監督、コーチ)にもそのまま当てはまるとしている。(第20条)

 日本学生野球協会は、学生野球という部活を対象にした団体であるために、プロ側を拘束する規定は憲章に謳えない。どうしても奥歯にものがはさまったような迂遠な表現になる。払うなではなく、貰うな、である。

 違反したら、ただちに高校野球の世界から追放される。高野連は、甲子園大会の主催者であり、それができる立場にある。

 どうすればよいか。利益誘導する政治家への資金還流に使われるノウハウが使われる。悪事になれば創造性が湧いて出てくるのが人の人たる所以だ。

 巧妙緻密な手法を駆使する。当事者はどこまでも口を閉じているから表には出ない。悪い奴ほど得をすることになる。

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 コンプライアンスとは法令遵守のこと。法令には狭義の法律だけでなく、日本学生野球憲章のような曖昧な加盟校野球部への縛りも含まれる。

 今回の西武問題は少なくとも中間報告の通りとすれば、いわゆる裏金問題ではない。そこをきちんと認識しないと西武球団の名誉が毀損される。

 毎日が報道しているように「学生のスポーツ団体が決めているルールを逸脱した現金供与問題」であり、金品を受け取った学生や指導者は高野連等の団体によって(監督、選手資格を奪われる等の)社会的制裁を受けるがゆえに大問題となるだけだ。

 雪印や不二家のような事件とは本質が違う。筆者にいわせれば、「太田頑張れ」コールが起きる大衆感覚のほうが健全だ。

 スポーツ芸能の世界に高校生だからといってピュアさを必要以上求める高野連の存在のほうが、前世紀の遺物のようでヘンだと思う。

コメンテータ:清水 佑三