人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

ケーユー
中古車の営業・整備部門
週休3日制 週休2日と社員が選択

2007年2月4日 日本経済新聞 朝刊 5面

記事概要

 中古車販売大手のケーユー(東証二部)は、現行の週休2日制に加え、4月から週休3日制を新設し、正社員(約300人)のうち販売、整備部門の約150人を対象に実施する。対象者は自由に週休2日制か3日制を選択できる。育児や介護等のニーズにより選択した場合は、その時期に限定しての利用も認める。3日制を選択した場合、基本給が20万円で固定され、賞与の支給はない。基準労働時間、超過勤務手当、販売実績等による歩合(加算)等はいずれを選択しても変わらない。今春入社する新卒新人は、本人の選択によって週休2日組と3日組とに分かれることになる。まず、新卒新人対象に新制度をスタートさせ、2007年中に全社150人に対象を広げる。管理職や管理部門は対象に含めない。新制度導入によって、勤務体系を柔軟にし、優秀な社員の離職を防ぐとともに、給与よりも休みをと考える若者をひきつけるのが狙い。

文責:清水 佑三

週休3日制併用は時代の流れ

 最初にケーユーの会社概要を紹介しておく。1972年創業の中古車販売の老舗。

 中古車販売で名が通っているが、連結ベースでみると、売上の3分の1は国産・輸入の新車が占めている。中古車専門から総合カー・ディーラーへの転進をはかっている。店舗網は関東圏に集中している。バイクのブランド、ハーレーダビッドソンの正規代理店にもなっている。

 この記事に目をとめた理由について述べたい。時代の流れを感じさせるからだ。

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(週休3日、在宅勤務は時代の流れ)

 筆者が勤務する会社は、総勢50人余で(大企業の)一部署にあたる規模の会社であるが、週休3日制を(個別的に)導入している。

 本人の希望があり特例措置として認めた。辞めさせてはいけない人材だという判断がある場合、(小さい会社では)個別取引にならざるを得ない。IT開発のエンジニアである。

 週休3日制ではないが、在宅勤務を週2ないし3日、認めている複数の社員もいる。子育てや介護の渦中にある人、仕事の性質上、在宅勤務でも生産性が落ちないと認めた有能層である。

(勤務形態の柔軟性とは)

 一流の仕事をする人の仕事の仕方には独特のスタイルがある。作家でいえば、真夜中でしか筆が動かない人もいれば、シティホテルに陣取らないとダメだという人もいる。

 第二次世界大戦でイギリスに勝利をもたらした宰相ウィンストン・チャーチルは、ギリギリの選択を迫られると、執務室にこもってバッハのレコードを聴いていたという。クリントン大統領と同じで、執務室で執務以外のことをやっていたことになる。

 ある特定の個人に、政策の立案・裁断や新製品・新工法の開発等、組織の未来を委ねるような仕事をさせる場合、仕事のさせ方でタガをはめるとかえって損になる。裁量性が強くなればなるほど、勤務形態に柔軟性が求められる。生理・心理がベストな状態で出力がピークになるからだ。

(営業・販売は裁量労働)

 会社でなされている仕事を精査すると、多くは機械的、画一的、手順的な仕事である。ロボット(システム)が高度化すればロボットに任せられる仕事だ。正社員にお願いしているのは違うのかもしれない。ロボット化、システム化になじまないと思っているのは、思う人の狭量かもしれない。

 営業・販売の仕事はそうではない。高度の裁量労働だ。条件、状況、相手、環境等で「ベスト行動」が千変万化する。変化球ばかりのピッチャーに対峙する打者のようなもの。とっさの判断がないと好打につながらない。

 とっさの判断の質を規定するものは何か。内在的、主体的な「意志」と「視力」である。打とうと思う強い気持ちがあり、ボールの変化についてゆける動体視力が機能すれば、クセ球や変化球への対応ができる。一般化すれば、裁量労働の本質的契機は「意志」と「視力」である。

(できる人ほど歩合給を求める)

 やってもやらなくても同じ報酬をくれるシステムは、一般的に、人の「意志」と「視力」をダメにする。動物園に連れて来られたライオンが「意志」と「視力」を弱らせ、魅力的でなくなるのは、定時に餌が与えられるから。

 センスのいい人は、勘が働いて自然に動物園への道を避ける。やらなければ自分が干上がってしまうような場所に自分を置こうとする。

 週休3日組の歩合給を週休2日組と比べ、よりメリハリのあるものにするとしよう。できる人ほどそちらの道を選ぶ。その道を選べば短い時間でよりピントのあった仕事をせざるを得ない。自分のプロ性が鍛えられてゆく。

(保守こそ信用創造の要)

 筆者は長くワインレッドのユーノス500に乗っている。その理由は、小田原にあるマツダディーラーの保守がよいからだ。その車と一生つきあおうと思っていると、保守の質が(顧客にとっての)ディーラー選択のポイントになる。

 車に限らない。外国のアンプでよい音がするのがあったが、故障が多く、保守体制がダメだったので泣く泣く別れた経験がある。機械は保守が生命である。

 保守業は、医者と同じで、スナップショットの計器測定の結果であれこれいじればよいという商売ではない。愛情のようなものをもって、その機械とつきあわないとダメだ。ホームドクターならぬホームメンテが必要なのである。

 そういう意味で保守職に週休3日を認めたのはよく理解できる。会社の発展は、大きく、営業と保守を預かる人たちの「意志」と「視力」に依存しているゆえである。

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 女性性は多様な種類の幸福を手もとに置いて生きようとする点で、男性性を凌ぐ。あれもこれもしたいのだ。ケーユーの週休3日という新制度は「意志」と「視力」に恵まれた女性社員層によって支持されるとみる。

 どういう結果をもたらすか。ケーユーの会社価値の動きを追えばわかる。

 老舗ほど環境適応がうまい。衰退しない老舗の秘密の一端をのぞかせてくれた。

 そういう意味でよい記事だ。

コメンテータ:清水 佑三