人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
栃木銀行
携帯電話の動画で自己PR 新卒採用の選考に導入
“個性や意欲”を把握
2007年1月26日 ニッキン 朝刊 18面
記事概要
栃木銀行は、新卒採用の新たな選考ツールに、携帯電話の動画像を加えるというユニークな手法を導入した。同行は、これまで書類選考、筆記試験によって、応募者約2000人を400人まで絞って面接にあげていた。「会わないで落とした人のなかに当行が求める適性に合致する人材がいる可能性が高い」(人事部)として、応募段階で携帯電話の動画像での“30秒自己PR”の提出を求め、書類選考、筆記試験に落ちた人の中で、この画像メッセージによって「人となりが評価できる」と判断した人を面接にあげることにしたもの。すでに同行のウエブサイトに登録を終えた500人に、動画像の受付案内を開始した。現時点では30人程度が動画像を添付した返信を寄せている。本人が名前と学校名を名乗ることを義務づけているほかは、服装やメッセージの内容等はすべて自由。これまで返信のあったものでは、バイト活動や特技など様々な内容がコメントされているという。同行人事部は「30秒と区切った時間で自分を表現できる能力」が見られるメリットは大きいとし、さらに応募する学生の「一度でいいから会って自分の話をきいてほしい」という要望を満たす上でも価値があるとしている。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
画像メッセージで選別する時代の始まり
コメンテータ:清水 佑三
地方銀行の仕事は、預金、為替、融資の3本だてからなっている。預金(勧誘)、融資は分かりやすいが、為替業務はむずかしい。
そもそもそれが、代金決済(相殺)権の売買なのか、差益(利息)を伴う信用貸付なのか、古来から仕事価値の根拠づけで論争がある。
もともと高度でややこしい仕事なのだ。複雑な為替取引は説明されてもついてゆけない人が多い。
それはともかく、地銀に新卒で入ると、当初3年間ぐらいは、営業店に配属され、営業(渉外)という仕事を担当することが多い。特定の個人、法人顧客に対して預金、融資、資産運用等の営業を行う。
机上のコンピュータ画面に向き合う仕事ではなく、人と向き合い、対話を通して仕事をしてゆくのが特徴だ。しかも扱う「商品」は、「かねまわり」であり、1円の間違いも許されない。対人能力に加えて情報処理(事務)能力をもたないとやってゆけない。
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栃木銀行の従来の(新卒)採用方法は、書類選考、次に筆記試験であった。書類選考や筆記試験を通して測られる個人差は対人能力ではない。
そこで(高いバーを設定して)絞込みを行うとしよう。次のような人が面接にあがってくるだろう。
エス・エイチ・エルの言語・計数筆記試験の高低得点者のパーソナリティをデータマイニング法を使って比較分析した根本清一氏の論文「パーソナリティと知能の理解のために」(河出書房新社『人事工学研究(4)』1989年)から引用する。
(書類選考、筆記試験で高評価される人の特徴)
こういうタイプの人が営業店に配属され、自行と取引がない(お金もちと近在で評判の)個人宅にゆけと指示されたとしよう。目的は信頼関係の構築である。煩悶に襲われる。
一方、書類選考、筆記試験で低評価される人の特徴はどうだろうか。同じく根本清一氏の論文から引用する。
(書類選考、筆記試験で低評価される人の特徴)
こういうタイプの人が同じように自行と取引がない(お金もちと近在で評判の)個人宅にゆけと指示されたとしよう。どういう行動をとるだろうか。
二つのタイプを比較したときに、どちらのタイプが営業店の営業という仕事に向くか。筆者は後者だと考える。筆記試験で落とした人の中に当行が求める適性に合致する人材がいるのでは、という栃木銀行人事の漠然とした気持ちは理解できる。
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栃木銀行が、筆記試験等の選別ツールに加えて「動画による自己PR」の提出を求めようとしているのは以上のような認識から理にかなっているといえる。
後者タイプの人で対人性能の高い人を面接にあげられるからだ。
アセスメント・ツールの開発を業としているものから一言アドバイスをするとすれば、動画作成について、来年は次のような条件づけをするとよい。
エントリーシート上の自己PRではわからないことが10分間動画ならよくわかる。
地方銀行の新卒採用においては、筆記試験による選別よりも、画像メッセージによる選別の方がよいと感じた次第。