人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

日産自動車
販社に新人事制度 チーム連携・育成盛る
成果主義型のひずみ修正

2006年12月5日 日刊自動車新聞 朝刊 1面

記事概要

 日産自動車(日産)は、このほど、連結52社、地場資本85社合計137社からなる販売会社(販社)に対して、00〜01年度に導入した成果主義型の人事(給与)制度を、07年度から大幅に修正したいとし、考え方の大枠を提示した。今年度下期から既に導入準備を進めている30社は、来年4月から正式に新制度に移行し、全137販社の7割が、時期の違いはあっても新制度を導入する見通し。新給与制度では、現行制度の問題点として指摘されてきた、(1)受注をとった店頭セールスが台数基準で厚遇され、受注に至る過程でその顧客に接遇したサポート社員が評価されない、(2)賃金等級がフラット化されたために、同一フラットに長期間滞留する社員が多くなり、賃金停滞感が生まれている、(3)現場の要である店長が、喫緊の販売台数の増減に関心がゆき、仕事の仕方の改善、(次代の)店長候補者の育成といった長期的な視野にたったマネジメントに目がゆかない、等について抜本的な修正が図られている。各販社は自社の状況に合わせて細部を調整の上、採用するかどうかを判断する。

文責:清水 佑三

セダン回帰と販社の人事制度改革の関係

 日産を率いる志賀俊之COOは、11月20日の記者会見で、「スカイラインは来年4月24日に誕生50周年を迎える。日産では2007年度を『スカイライン・イヤー』と定めて、イベントなどを展開する。国内市場はミニバンや小型車、軽自動車が全体の7割ぐらいを占め、セダン市場は小さくなるばかり。この流れに(新スカイラインなどで)歯止めをかけることが、登録車メーカーの責務だと思っている」と語った。

 月間1000台の目標を掲げた新スカイラインは現時点で売れに売れている。セダン市場復活をめざした日産は、思惑どおり07年度を輝ける『スカイライン・イヤー』とできるかどうか。

 小さい車ばかりが町を走っていると、歴史、観光しか主要資源がないヨーロッパの片田舎のように思えてくる。縮小、老化してゆく国のひとつの象徴としてミニバン、軽自動車化現象がある。

 登録者メーカーの総帥としての志賀COOのコメントは多くの車好きの琴線に触れる。

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 日刊自動車新聞の当該記事がいう、日産が販社に求める新人事制度のポイントは以下に要約できる。

バンド方式の導入
同一等級内の月例賃金をフラット(同じ)とした現行制度を階段状に修正する。ここでいうバンドとは放送電波の周波数帯の意味。毎年少しずつではあるが周波数バンドが変わり、昇給してゆく。年度が変われば給与があがる。心弾むものの復活である。人心の機微をついている。

月例賃金における個人ウェートの引き下げ
給与は生計支援、賞与は成果配分・報奨という役割分担(社会通念)からいえば、給与には成績差を大きく投影させないほうがよい。なぜなら差をつける根拠があいまいなことが多いからだ。たまたまそこにいたから成約となったのか、能力と努力ゆえに成約に至ったのか、誰にも判定できない。月々の給与明細で社員をイライラさせるのは得策ではない。

店頭スタッフの評価法の修正
ある顧客が5回店頭に来たとする。最後の成約時に接客したセールスに「販売台数カウント」がゆくのが現行制度。その顧客に3人が接したとしたら、その3人に3分の1台の「販売台数カウント」がつくようにしたとしよう。すべての店頭スタッフはつねに意欲をもって接客するだろう。

職制のミッション
(自動車)販社の職制は、店舗長と修理・点検等を預かる工場長とに大別できる。いずれの職制であっても、「チーム連携」と「育成」ができている度合いを「評価」「給与」の基準にいれる。

ミッション1 「チーム連携」
個別顧客の満足度を最大にする社員間の協調、協力体制の構築をいう。セールスに話しても修理に届かない、では販社はもたない。「チーム連携」というとわかりにくいが、一人ひとりの顧客に向かって異なった立場の人同士が声をかけあって仕事をするということだ。

ミッション2 「育成」
職制に求める「育成」とは将来のマネジメント層を育てる環境、風土づくりをさす。多国籍企業において一般化されている「サクセッション・プラニング(後継者育成計画)」の導入である。これを行うためには職制の仕事、役割を明確化しなければならない。上級(部長)店長には、店長候補育成のほか、作業手順の標準化、拠点改革などを求めている。

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 車も住宅、宝飾等と同様、個人を対象とすることが多く、製品単価が高いという特徴をもつ。訪販という手法と店舗販売の二つの手法をとる点でもそれらの業界は共通する。

 個人情報保護法の背後にある「時代感情」は、どこでどう手にいれたかわからない名簿によってなされる押し売りまがいの、電話、訪問でわずらわされる市民の悲鳴である。1日100人の未知の人と会うことが「営業マンの鑑」とされた時代は終焉しつつある。

 時代の流れは個別顧客への訪販から店舗販売に向かっているとみる。

 かかる状況下での自動車販社の競争は、パブリック・リレーションのうまさ、ショールームのデザイン、訪れた見込み客への対応の妙、タイミングのよい試乗のすすめ、買ったあとのきめこまかいフォロー等の流れの卓越性を競い合うことでなされる。

 日産が販社に求める新人事制度もその流れを受けてのことである。

 訪販主体の時代であれば、セールスの意欲、能力等の個人差を販売台数という基準で評価しても矛盾は少ない。自己紹介から最後の成約まで1人のセールスが1人の顧客に向き合うからだ。

 日産がセダン回帰を目標として選択したことと今回の販社の人事制度改革は、シンクロしている。より高付加価値のものを作るのであれば、販社の対応もまたチーム化し、洗練、高度化しなければならない。

 新しい酒は新しい皮袋に、である。

 日産が製販連携してとろうとしている方向はよく理解できる。正鵠を得ている。

コメンテータ:清水 佑三