人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

アイフル
評価制度変更 定期検査の実施サイクル6ヶ月に短縮
「成果主義」から「コンプラ主義」へ

金融経済新聞 2006年9月11日 朝刊 7面

記事概要

 アイフルは9月1日、5つの行政処分を受けて取り組んでいる「コンプライアンスを尊重する企業風土の確立」についての進捗状況を発表し、あわせて今後の強化策にもふれた。6月5日にスタートした全社横断的な「信頼回復プロジェクト」では、自社による調査では、「組織風土・カルチャーの問題」に踏み込むのは難しいとみて、危機管理に実績をもつ中島経営法律事務所とコンサルティング契約を結び、役員・部門長、全課長・課長補佐職に対して「何が組織を法令違反に走らせたか」を徹底的にヒアリングした。その結果、「業績至上主義」が(法令違反に組織を向かわせた)主要因として浮かび上がった。それを助長したものとして「成果主義的評価制度」を特定し、今後の組織課題を「コンプライアンス主義的評価制度」に変える体制整備に入った。

文責:清水 佑三

アイフルに届けたい「四つの提言」

 2005年4月18日づけで、被害者代理人弁護士、河野聡氏から近畿財務局長あてに提出された行政処分申立書の冒頭と末尾の以下の文章をみれば、一連の行政処分がどのような市民の「訴え」によってなされたかについてあらましの理解ができる。

 煩を厭わず、公開資料からひく。文中、当職とは訴えた河野聡弁護士、貴職とは近畿財務局長、●●●●は被害者を意味する。

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 行政処分申立書

 (書き出し部分)
当職は、アイフル被害対策会議の代表を務める大分県弁護士会所属の弁護士ですが、当職が受任した下記被害者に対し、連帯保証及び抵当権設定契約にあたり準詐欺罪に該当する行為を行ったものであり、貸金業規制法37条1項4号ないし36条9号に該当しますから、貴職において、下記業者に対して、登録の取消又は営業停止の処分をなされたく、ここに申し立てます。
本件申立事実は、アイフル中津支店長有田浩一が、●●●●が完全に意思能力を欠如していることを認識しつつ、同人に連帯保証契約書及び根抵当権設定登記委任状に署名捺印させて、同人所有の土地建物に根抵当権設定登記手続きをしたという事実である。 

 (結語部分)
本件は、●●●●に意思能力がなかったことが明らかな事件であったにもかかわらず、アイフルは当職の根抵当権抹消の要求に応じなかったため(略)大分地方裁判所中津支部に対して、根抵当権設定登記抹消登記手続等請求訴訟を提起した。(略)これに対して、アイフルは、(略)請求を認諾した。アイフルは本件事案が到底反論・反証のできる事件でないことを認識して認諾したものと認められる。しかしながら、アイフルは事実を認めたわけではない旨の文書を当職充てに送付してきているのであり、本件について何ら反省もしていないことが明らかである。したがって、実務改善の期待はできないのであり、行政処分による制裁の必要性が高い。 

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 アイフルが4月の行政処分を受けたあと、行ってきた社内的な取り組みは(記事によれば)以下のとおりである。

  • 個人および店舗の業績を評価に連動させない。
  • (与信の適正化を促すため)利用者への案内ルールを厳格化する。
  • 過剰勧誘を撲滅(ほろぼし絶やすこと)する。
  • (ローン)利用者の勤務先に電話することを全面的に禁止する。
  • 債権請求部門における全通話記録を録音し、専門部署を設けてチェックする。
  • 年1回の定期検査サイクルを年2回に短縮する。
  • 5つの行政処分事案に関する社内勉強会の実施。
  • 貸金業規制法に関する社内勉強会の実施。

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 ここでは、(ビジネス場面での)人の性質について思考を巡らせてきた立場から、アイフル再建に向けての愚見を述べたい。四つの角度からアイフルに提言する。

 (弱い個人を見抜く)

 パチンコ、競馬にはまって借金地獄に落ちてゆく人は、町を歩く人をランダムサンプリングすれば、10人に1人という割合で存在する。一つの典型的なパーソナリティなのである。アイフルは収益の激減と引き換えに、こうした(弱さをもつ)顧客を見抜くパーソナリティチェックのノウハウをもち、そういう可能性があれば顧客にしない(金を貸さない)という行動原理を接客カウンターに持たせればよい。外見、ものいい、からこのタイプの人を見抜くチェックリストは、専門的な研究によって(一定の効用をもつものを)つくれる。

 (顧客の定義を変える)

 借りる、返せない、また借りるの循環をたどる顧客群に対して、過剰に返済を迫る場合に、法令違反行為が起こりやすい。貸金業者が、ローン利用者の職場へ繰り返し電話するのは、それが有効だからだ。その電話によって、借りる、返せない、また借りる、の悪循環を促しているようなもの。ならばどうすればよいか。一度でも期日返済ができなかった利用者を顧客リストから外し、貸金分を貸し倒れ引当金で償却すればよい。収益は激減する代わりに、財布がわりに愛用するリピート顧客が増えるだろう。マイレッジシステムで利息を下げればファンがつく。

 (女性だけの会社にする)

 目的のために手段を選ばないパーソナリティは、男性において多く出現する。歴史上、戦争が絶えないのは、政治(という場)を男性が占拠してきたからだ。神は、人類存続のために「相手をいたぶらない」性質を女性に多く与えた。母性とよばれる性質だ。アイフルは、法令違反を繰り返す部署の、(社員)男女比を逆転させることに着手すればよい。問題部署は全員を女性にしたほうがよい。いかにも母性という人を選ぶ。収益は激減するが、法令違反事案もまた激減するだろう。

 (勉強会に被害者を呼ぶ)

 「被害者の立場で自分をみる」が加害者の改心を促す。学識経験者ではなく、アイフルの非道な行為によって社会的、経済的立場を奪われた被害者を呼んで、自らへの糾弾の声をきくとよい。勉強会で、その声を聞けば聞くほど、一人の人として何かが目覚める。中国残留孤児2千余人が日本国を相手どって「国策が間違っていた、ご迷惑をかけました。お詫びする」の一言(+残日の安寧)を求めた訴訟を行っている。彼らの悲劇を詳しく聞けば聞くほど、国策立案者の肝は冷える。改心の契機はそれしかない。

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 人間の弱さを商機として組織的に突く、は豊田商事事件でいやというほど見せられた。今から20年以上前の事件。

 金をもっている高齢者が徹底的に狙われた。営業マンが、まず家に上がって、仏壇に線香をあげる。「自分を息子だと思ってくれ」などとして徹底的に親切を売り込む。タイミングをみて、金の地金(契約証券)を売り込んだ。契約証券なるものはただの紙切れ。詐欺商法である。

 アイフルの行政処分事案と豊田商事事件は全く違う。しかし、アイフルに対して社会が見る目は厳しいといっておく。

 「成果主義」を「コンプライアンス主義」に変えて片付くような問題ではない。

コメンテータ:清水 佑三