人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
「日本の女性起業家シリーズ」
EQソリューション社長渡邉小百合さん
感情面から人材教育サポート
2006年9月2日 フジサンケイビジネスアイ 朝刊 24面
記事概要
EQソリューション社長の渡邉小百合さんは、福島県出身の41歳。郡山女子短大保育科を卒業し7年の病院勤務を経てから大手飲食チェーン店に入った。東北、関東、関西の店舗マネジャーを経験し、女性としてはじめてその会社のチェーン本部管理職となる。昨年5月に退職し、今年の5月にEQソリューションを立上げ社長となる。渡邉さんがEQとであったのは、大手飲食店チェーンに勤務していたときのこと。礼儀やマナーの大切さを店舗スタッフにいくら教えて理解させても行動が伴わない。どうしたらよいか。「正しい行動を教える」従来の知識習得型研修ではダメだ。「自分がお客さんなら、どうしてほしいと思うか、その場その場で気づくようにしなければ」。“EQ”による接客業改革に希望をもった。“EQ”を極めたい。渡邉さんは自分で「EQソリューション」社を立ち上げ、接客業社員のEQのレベルアップを社業とする道を選択した。「新入社員ができない、知らないというのは当然。どうやったら自分で気づき情熱をもって行動できるようにするか。幹部を(“EQ”)教育することがとても大切なんです」と語る。(田畑則子記者)
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
“EQ”とは何か。社員の“EQ”平均値は得られるか?
コメンテータ:清水 佑三
労務行政研究所のホームページに“EQ”が簡潔に説明されている。以下、紹介したい。
EQとはさまざまな人間関係を円滑に保つための能力
「EQ」は、Emotional QuotientまたはEmotional Intelligence Quotientの略で、日本語では「感情知能指数」と訳されています。自分の感情をコントロールしたり、対人関係を円滑に保つ能力、いわゆるIQ能力にはあてはまらない「情と意」の能力といえます。チームワークや円滑なコミュニケーションが必要とされる場面では、このEQ能力が高い人が求められます。
これでよいと思う。提唱者の米心理学者ダニエル・ゴールマンも強くは否定しまい。
拙著『逆面接』(東洋経済新報社)の新版で筆者は次のように書いた。
…アメリカの心理学者ダニエル・ゴールマンによる「EQ」は、組織をまとめる力や他人との交渉力をモデル化したものだ。彼が注目したのは、「エモーション(感情)」の働きである。自分の感情に気づく、他人の感情に気づく、自分と他人の感情の相克に気づく、気づけばそれに対する方策をとることができる。「感情」の認知・判断・操作の能力を彼は「EQ」と定義した。生き馬の目を抜くアメリカのビジネス界がすぐさまそれを活用しようとしたのはよく理解できる。(P.139)
忘れてならないことは、“EQ”は、ある人の姿勢、スタンス、態度のような「志向性」に対して付された言葉ではなく、ある場面においてあることが、できる人、できない人を区別する「能力」の種類に対して付された言葉であることだ。
ある場面、あることとは、厳しい人間関係の対立を鎮めたり、暗礁に乗り上げてしまった交渉を妥結させなければならない場面をいう。
それができる人は、接点や妥協点をつめる概念化能力に加えて、その接点や妥協点を関係者全員が受け入れる「感情」醸成能力をもつとゴールマンはみた。彼の卓見である。
筆者によれば、江戸期の本居宣長が説いた「もののあわれを知る」学説が時と場所を隔てて、ゴールマンにおいて再登場したもの。ゴールマンの考えは、彼を指導した「人間知能」提唱者、ガードナーに遡る。
単なる新視点の提供ではなく、社会の安寧と秩序を促す倫理学説としての側面を強くもつことが、宣長、ゴールマンの主張に共通するといっておく。
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(筆者が)ゴールマンにもっとも忠実であると考える“EQ”測定ツールの尺度名と定義を紹介する。30歳に届かない静岡県在住のOL“HARMONY”氏が、自分のホームページで公開しているものだ。
http://www2.tokai.or.jp/HARMONY/eq/eqtest.htm
対自己EQ 自己の感情に気付きそれをコントロールする力
対他者EQ 他者の感情に気付きまわりとうまくやっていく力
日本語が日本語になっている。あえて日本語にしていない部分を含めて科学的良心をもっている。学者臭や儲け主義の胡散臭さがない。
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企業構成員の平均年収は、(株式上場していれば)ヤフーファイナンスの当該企業ページをひけば見ることができる。平均年齢を勘案すれば、年収の高い会社かどうかがわかる。
同じように、“EQ”の社員平均値が『会社四季報』的なものに掲載されているとしよう。その会社と縁をもとうと考えるすべての人にとって、こちらの立場や気持ちを酌んでくれる度合いがあらかじめわかるから、この値には重宝するだろう。
イギリスのサビルコンサルティングで仕事をしているサイコメトリシャン、ビル・メイビーは、イギリスがこうした数値の公表を企業に義務づける最初の国になるだろうと予測している。
そのためには、適切な“EQ”テストの開発が前提になる。残りの紙幅を使って、その開発の手順を述べておく。
日本エス・エイチ・エルはこうした手順で開発したWebテストの頒布を近々に予定している。
ユーザーはそれを使ってどうするのか。概念知能が高く、かつEQ知能が高い人を要所、要所におけばよい。概念知能はすでに従来の採用基準にあるから問題ない。EQ知能をつけくわえて要所要所への登用基準とすればいい。
ビル・メイビーの「ステークホルダーがもつ感情を理解できない企業は存在してはならない」という強い言葉が思い起こされる。
米国生まれ、英国育ちのハードボイルド作家、レイモンド・チャンドラーは、『Playback』で、探偵フィリップ・マーロウ に「強くなければ生きられない。優しくなければ生きる資格はない」といわせた。ここまで書いてきて、その言葉が思い浮かんだ。