人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

トランスコスモス
コールセンター 沖縄の最大拠点開業 運営コスト削減

2006年4月26日 日経流通新聞 朝刊 7面

記事概要

 トランスコスモスは、このほど沖縄県那覇市内に約30億円をかけて、9階建て延べ床面積1万1千平方メートル、席数1340という県内最大規模のコールセンターを開業した。女性スタッフが中心となることを想定し、1階部分に託児所を設け、300人が収容できる大型の休憩室を設けるなど、働く人に配慮した施設をめざしている。トランスコスモスはすでに沖縄県内に2ヶ所のコールセンターを展開しているが、人件費の安い同県で拠点を拡大することで、運営コストの削減につながるとしている。新設された「マーケティングチェーンマネジメントセンター那覇」に業務委託している企業は、日興コーディアル証券、NECなど3社。現在の稼働率は2割程度であるが、東京の拠点で受注している業務の同センターへの移転を促進させ官公庁からの新規受注なども加えて稼動率を早期に高めてゆきたい考えだ。

文責:清水 佑三

沖縄女性にはコールセンターがよく似合う

 『urma(うるま)』という月刊誌がある。版元は三浦クリエイティブ。2005年5月、6月、7月の3号の特集は「沖縄人とは?」であった。

 各号の特集を紹介しているコピーが面白い。日本でありながら日本でない沖縄の雰囲気が伝わってくる。

5月号 身体編
個性溢れる文化や風習が息づく島、沖縄。そんな不思議な土地で暮らす人々もまた、独自性に満ちた特別な存在なのです。今回の特集の主人公は、ズバリ「沖縄人」そのもの。今月号より3回にわたり、愛すべき沖縄人の魅力に迫ります。
6月号 言葉編
遥か遠い日本の残像や波乱万丈の沖縄史など時間と風景の移ろいを万華鏡のように映し出す。うちなーんちゅの心の相棒、うちなーぐち。温かくておおらかなチムグクルが宿るうちなーぐちの世界を覗いてみましょう。
7月号 生活編
「沖縄人とは?」の最終回。沖縄のリアルライフが見せる光と影に真正面から向き合って、そこから溢れる沖縄への愛を語ってみたいと思います。

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 沖縄と沖縄人に興味をもつ人に勧めたいNHKの番組がある。ETV特集『沖縄“笑いの巨人”伝〜照屋林助が歩んだ戦後』(2006年2月18日放映)だ。

 三味線漫談をひっさげて沖縄(進駐軍)芸能界に彗星のように登場し、以後、75歳で大往生を遂げるまでの波乱の生涯が(演出家宮本亜門の目を通して)語られる。

 太平洋戦争で唯一地上戦が行われた沖縄で、焼け残った数少ない家々をまわり、獅子舞のようにして部屋にあがって「生き返り節」を踊り、待っていた家人を笑い転げさせた。「死者の供養だ。生き残った者は大口あけて笑わにゃあ」が彼の思いだった。

 林助は1990年、コザ独立国を建国し、初代の大統領に就任する。このあたりは獅子文六の『てんやわんや』、井上ひさしの『吉里吉里人』を彷彿させる。

 林助はまた、沖縄本島の東西の文化差に注目して不朽の文学『海上の道』を書いた柳田国男に優るとも劣らない市井の民話研究家でもあった。

 消えゆく寸前にあった多くの島歌が彼の録音機を通して保存された。貴重な文化財を保護、保存した功労者でもある。

 笑いの巨人照屋林助は、一方で哲学者の風貌をもち、「沖縄人の深層」を生涯にわたって追いつづけた。

 司馬遼太郎も、『街道をゆく』第8回「先島への道」で、思い入れ深く沖縄を歩き、「鉄文明」と長く無縁だったがゆえに生まれた沖縄のくらしぶりについて、愛惜をこめたコメントを残している。

 沖縄と沖縄人にはそこまで人を惹きつける深淵のようなものがある。

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 ところで、なぜ、トランスコスモスは、沖縄にコールセンターの巨大な拠点を作ったのか。その理由は、記事にあるようにコスト要因だけであろうか。

 筆者の見解は違う。

 世界一長寿といわれる沖縄女性の「人的資質」の特殊性がコールセンター業務の特殊性と同期しているのだ。

 それならどういう特徴を沖縄女性がもつというのか。ここにある会社に対して行った大規模な拠点(勤務地)別、職務別、属性別のOPQ(職務適性)データの分析報告書がある。

 業界、業務の内容等は明らかにできないが、コールセンターに限りなく近い仕事に従事している人たちが分析対象になっている。以下は、報告内容の一部である。

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 (沖縄の女性スタッフは、沖縄を除く日本全国の女性スタッフと比べ、自分を次のように捉えている)

・目立つのが嫌い
目立たない場所でひっそりと自分でありつづけることが好き。大勢の前で壇上にあげられて「自己PRを」といわれると何を話していいかわからなくなる。人より優れているところ、といわれてもなかなか思いつかない。目立つことをするとどこかで人の恨みやねたみを買ってしまうのではと心配になる。

・人に法を説かない
人の存在・哲学はアンタッチャブルであり、尊重し尊敬することがもっとも大切だと思い、そのように振舞う傾向性がある。土足で人の家の床の間に入り込んで、家宝の掛け軸に手をかけ、形をねじまげるようなことは許されないと思う。偉そうなことを言う人には「ごもっとも」というしか手がない。

・喧嘩を好まない
思っていることがあっても口にしない。思っていることを口にしなさい、という文化圏の人からみると何も思っていないのだと判断される。思っているがあえて口に出さないのか、思っていないから口にしないのか自分でもよくわからない。いつもニコニコしてうなづいている。結果的に喧嘩をしない。

・変化を追わない
わかっていることを、わかっているやりかたで続けているときに私の気持ちは静かになり自信をもつ。よい品質のものを生みだし続けていることが自分でよくわかるからだ。新しいやりかたでやろうとすると、精神の平衡を崩し、失敗してしまう。それはいやだ。

・せっかちに決めない
ものごとを何につけても早く決めたがる人がいるがヘンな人だと思う。物事を決めるときに一番重要なのはタイミングだ。今はそのタイミングではない、と私はいつも思う。じゃあ、いつがタイミングなんだと聞かれるが、今はそのタイミングではない、と思うだけ。やがて決断するときがくるが今ではない。

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 いずれの特質も、比喩を使えば、「もののあはれを知る」「待てば海路の日和かな」にたけた人がもつ特性である。コールセンターに向くのはこういう傾向性をもつ人たちだ。

 目立とうとし、人に法を説き、喧嘩を好む人が、機器の不良で困って電話してくる人と向き合い対話するとしよう。相手によっては収拾のつかない展開になる。

 ここにコールセンターが沖縄に集中する隠れた秘密がある。

 目を地球儀上に転じれば、インドと沖縄にコールセンターが集中する。(エス・エイチ・エルグループのコールセンターもインドにある)

 前者は世界中の英語圏の相手からかかってくるコンピュータのハード、ソフトに関するヘルプデスク的コールに対応する。後者は日本語圏の相手からかかってくる機器、サービス等の説明支援やクレームに対応する。

 インド、沖縄に住む人たちの人的資源の特徴に理由がある。

 概念化知能の高いインド人と、感情知能の高い沖縄人が、まったく見知らぬ人との知識(インド)と感情(沖縄)を交換する「コールセンター」という仕事に向いているのだ。

 コスト削減はほんとうの理由ではない。今西錦司のいう「棲み分けの世界」が現出している。

コメンテータ:清水 佑三