人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
ボッシュの新人事制度 定量評価確立に着手 次代のリーダー育成
2006年01月23日 日刊自動車新聞 朝刊 1面
記事概要
ボッシュ株式会社(独ボッシュグループ。ディーゼル用噴射ポンプ等産業機器)は、人事制度の見直しの一環として、外資系企業としては異色の「日本的なチームワーク重視」をめざしたあらたな人事評価制度づくりをめざす考えを明らかにした。ステファン・ストッカー社長は、成果主義、能力給などに傾く日本企業を尻目に「一人ひとりの仕事ぶりにあまりに目が行き過ぎると、日本のものづくり文化を根底で支えている大事な組織風土が失われる」「となりの垣根を越えて積極的に仕事に取り組むような意欲を喚起したい」として、社員の個々の業務遂行という狭い視点に囚われない「現場の協調を促し、チームに勢いを与える能力」を評価の機軸におくことを示唆した。外国人社長が日本のチームワーク重視の企業風土を評価し、それを積極的に活用しようという試みに注目が集まっている。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
チームワーク至上主義の再評価
コメンテータ:清水 佑三
日刊自動車新聞にとってボッシュは書きなれ、扱いなれた企業なのだろう。特に企業の概要について注釈をつけないでいきなり内容に入っている。
一般の人にとってボッシュといってもあまりなじみがない。
日本法人の設立は昭和14年で、自動車用機器メーカーとしては、ずいぶん長い歴史をもっている。
日本人学生がドイツに留学しようと思うとき、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団などと並んでドイツボッシュ留学奨学基金などにお世話になる。私の友人がドイツに留学したときに現実にお世話になった。それでボッシュの名前だけは知っていた。
日本法人(連結)の売上の半分以上をディーゼルエンジン用燃料噴射装置が占め、残りの半分は車両用空調機器が占める。日本法人の業種分類は「輸送用機器」であり、日本の株式市場に上場してからもう半世紀以上が過ぎている。老舗中の老舗の外資系である。
解説に入る前に、記事の見出しづけに苦言を呈したい。
「ボッシュの新人事制度」「定量評価確立に着手」「次代のリーダー育成」が見出しになっているが、それだけを読むと、次代のリーダー育成をめざして、(今まで定量的にやってこなかった)評価制度の定量化に着手する、というメッセージしか伝わって来ない。
この記事を書いた記者がいわんとするところは、
どこを探しても「定量評価確立に着手」が訴えの中心であることを示す記述はない。その言葉を大見出しにすることで大事なメッセージを伝えるチャンスが失われる。デスクの見出しづけに記事を書いた記者は泣いていよう。
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この記事の最大のポイントは日本のメーカーの経営資産の中心に働く人たちの「チームワーク」がある、という認識だ。筆者が勤務する、多国籍人的資源研究機関、エス・エイチ・エルグループが考える「チームワーク」の概念を紹介したい。
エス・エイチ・エルは、チームワークという経営資産を次のように定義する。(筆者訳)
「自分がもっているすべてをチームのために拠出する用意がある。つねにチームの目標達成にむけて意欲をもち、チーム優先の考えを行動で示す。メンバーの話を自分から聞きにゆく。メンバーの気持ちをよく配慮し、困っている場合は支援を惜しまない」
チームを会社と置き替え、メンバーを部署と置き替えて読んでも意味はとおる。リーダー層に求められるチームワークは、むしろそちらのほうだ。
この性質を豊かにもつ人がとる行動傾向性は次のようなものだ。
…社外の友人・知人の力を借りてまでチームの目標達成に打ち込む。
…チームのために何ができるかをつねに考え、与えられた役割以上の貢献をしようとする。
…落ち込んでいるメンバーに、一番先に気づき、話を聞きに行く。
…支援するときはとことん支援し、問題が解決するまでつきあう。
…自分の仕事は後回しにする。
直截的、目的的な欧米合理主義から、最後の「自分の仕事は後回しにする」は導かれない。これは、チームワークが至上だと考える我々の先祖たちが、長い年月で育んだ「作品としての行動」の例である。
世界の名車ポルシェは名工たちのチームワークによって生まれた。(2004年10月当欄『ポルシェ』参照)。
ポルシェを産んだ国の会社だから「チームワーク」の価値に気づいたと言えるだろう。