人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
新日鉄ソリューションズ
深夜残業と休日出勤ダメ 全面禁止
IT大手で初 業務効率改善促す
2006年1月19日 日経産業新聞 朝刊 23面
記事概要
ここ数年、システムが高度化・複雑化したこともあり、IT業界では深夜・休日出勤が常態化している。業界団体の情報システム産業協会の調べでは会員企業387社のエンジニアの所定外労働時間の平均は年間で282時間(2004年度)。この数字は全産業平均の2.3倍にあたる。IT業界大手である新日鉄ソリューションズはこのほど深夜・休日の出勤を(24時間保守などの社員を除き)全面禁止し、家で仕事をすることにつながる重要資料等の社外持ち出しを厳禁する現行規定の運用も強化した。やむを得ない場合は、上司の事前許可が必要になる。こうした深夜・休日出勤の全面禁止はIT業界では初めてであり、行方が注目されている。新日鉄ソリューションズの話では、一時的に競争力の低下があっても長期的には収益性や成長性が逆に高まるとみている。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
生産性向上に向けてこれ以上の名案はない。
コメンテータ:清水 佑三
UBS証券は、1月13日づけで、新日鉄ソリューションズの投資判断を「中立」から「Buy2」へ引き上げた。また目標株価についても、37%アップの4100円へ引き上げた。
背後に、ITサービス業界全体が3年ぶりとなる活況期に入り、金融業界、小売り・物流業界の再編等をきっかけに大型のシステム統合需要が活発になるという予測がある。そのIT業界の代表の一つとして新日鉄ソリューションズをみているのだ。
新日鉄ソリューションズはいわゆる冠企業であるが、親会社への依存度は少ない。探究心の強い独立自尊の社風をもつ優良会社である。
私ども(日本エス・エイチ・エル)にも、ずいぶん前から、人事の方がよく勉強会にお見えになり、他の会社とは一味も二味も違った鋭い質問をされていた。質問内容に官僚臭がなく、本質志向性が高い会社という印象があった。
安定性を高度に求められる製鉄所の制御システムで培われたIT技術には定評があり、神話に近いブランド力をもっている。
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新聞記事に話題を移そう。本当のパイオニアでないとできないことをやった、えらい、というのがこの記事を読んでの正直な感想だ。記事中、次の文章が目をひく。
…従来は一部の優秀な人材に業務が集中する傾向があり、体調を崩す社員も少なくなかった。
…(それをさせないように)「技術本部」が中心になって、全社を挙げて「仕事の進め方や業務の割り当て」の見直しに取り組む。
…全社で十強ある事業部門の部門ごとに深夜・休日の事前許可の実績データを集計し、多すぎる、要改善と判断した場合には、部門長に改善を求める。
…(こうした力ワザで)長時間勤務に歯止めをかけることで、全社の業務効率の改善が促される。
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筆者の長年の観察によれば、残業時間が部署平均を大きく超える人には二つのタイプがある。一つは記事中にある「一部の優秀な人(タイプA)」である。他は「残業中毒患者(タイプB)」と呼ぶべき人である。数から言えばタイプBが圧倒的に多い。
会社にとってどちらのタイプがよりシリアスかといえば間違いなくタイプAである。将来のボードメンバーか、人間社宝の名人、名工予備群が「長時間勤務の連続」で心身のバランスを崩し、戦線を離脱してゆく。
不幸であり、悲劇だ。何とか食い止める手はないか。新日鉄ソリューションズは明快な解決案をだした。次のようなアイデアである。
この結果、組織の化学変化として、何が起こるのだろうか。次のような想像が働く。
新日鉄ソリューションズがいうとおりこのやりかたによって生産性向上に結びつくと筆者はみる。蛇足かもしれないが、タイプB型の人の特徴のようなものを列挙しておく。
(残業中毒患者の特徴)
最後の部分が中毒患者の特徴である。深夜残業・休日出勤はどうみても麻薬的なところがある。そのときの自己陶酔とひきかえに自分を長期間にわたって壊してゆくのである。