人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

北海道電力
若手管理職が研修発表会 経営層を早期育成

2006年1月11日 電気新聞 朝刊 11面

記事概要

 北海道電力は、さきごろ、浜田賢一副社長、西村求常務らが出席し、今年度から始まった(本店グループリーダー対象の)「経営リーダー研修」の締めくくりとなる「研修成果発表会」を行った。経営リーダー研修は、従来の社内教育体制の見直しの一環として、将来の経営幹部の早期育成を目的に、本店各部のグループリーダー19名に、昨年7月から新しく5回シリーズで行われてきたもの。発表テーマは、過去5回で理論的側面を学んだ「経営戦略」「マーケティング」等を、北電が現実に解決を迫られている中期的な経営課題に応用し、浜田、西村両氏を聞き手にして「改革への具体案」のプレゼンテーションを行うという形式。「ほくでんグループ物流革命」「マーケティングの強化対策」「グループ内人材派遣会社の設立」などが発表テーマに選ばれた。発表会に出席した浜田副社長は「現状を変えてゆくよいプランの練り上げと改革実現に向けて部門の壁を越えて調整する力が必要だ。あくまでも現場の視点を忘れないことだ」と将来の経営幹部候補たちを激励した。

文責:清水 佑三

プレゼンテーション・イベントの効用

 投資家に提供される多様な企業ランキングデータの中のひとつに「融資残減少ランキング」と呼ばれるものがある。最近ではアイフル、プロミス、三洋信販など消費者金融大手が上位に来ているのが目を引くが、その中で北電の名前が7位にランクされていた。(2006年1月10日 フィスコ)

 周知のとおり、融資残減少率が上位に来るとは、投資家の関心の高まりで膨張した信用取引の売り建て、買い建ての株数に異動が短期間に生じ、市場で玉(ぎょく)の整理が進行していることを示す。株価の「よい下げ」を意味しているととってよいだろう。

 「この貧乏下がりなんとかしろ」といらだつ北電投資家への筆者の回答だ。ところで、「投資家」から見た北海道電力の姿は…。

  • 配当利回り2.05%(1月15日)。
  • 出来高は東京電力の1割。
  • 泊3号機が動く平成21年まで資金繰りに余裕がない。
  • 大口ユーザーである紙・鉄鋼などで自家発電化が進みいい話が少ない。
  • 北海道への大メーカー誘致で動きが見えない。ユーザー開拓努力が見えてこない。

 などなど否定的な見方が並ぶが、そうばかりではない。電力各社を比較して北電の特徴は?と尋ねるとしよう。言下に「風力」という新エネルギー開発への期待が戻ってこよう。

 平均風速6メートル/秒以上が得られる北海道、青森、秋田の海岸部をもつ北電、東北電はその意味で他の電力各社に比べて明らかに優位性がある。

 苫前ウィンビラ発電所は、プロペラ直径が60メートルある1650KWの発電タワーを14基もっている。白い大きな14基が搬入道路にそって次々と並ぶ姿は壮観である。

 オランダの数百年にわたる国土開発の歴史を紐解けば明瞭だ。地域住民との親和性という観点からも未来のエネルギー源に「風力」をもってくるのは正解なのだ。今は微々たるものであっても将来は違う。そういう意味で、北電は明らかに「買い」なのである。

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 公益ビジネスを行うものにとって「利益創出改革」は難しい。自由度が限られているからだ。ネット関連ビジネスのような天馬空をゆくような自由奔放さをどうしてももてない。

 経営幹部の教育にそれが反映される。公益ビジネスの幹部に求められる最たる能力は「プレゼンテーション力」である。そのセンスを早くから見抜くことが大事だ。

 若いグループリーダー層に5回の経営学基礎講座を学ばせ、それを現実の中期課題に応用させて「提案型プレゼン」を経営トップにさせるというアイデアがよい。

 まず何よりも経営トップにとって目が覚めるものがあろう。外部コンサルタントは実際の仕事現場を知らない。発表を聞くたびに異国の宗教への宗旨がえを求められる実感がつきまとう。心が乗れないのである。

 『釣りバカ日誌』で鈴木社長が外人コンサルタントの提言に切れる場面があったがまさにそうなのだ。

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 一般に経営幹部候補生を対象に研修目的で「プレゼンテーション・イベント」を行う場合の、手順、要諦のようなものを記しておく。

 (発表会までの期間)

  • テーマを決めたら半年くらいのスパンをかけて発表者及び研修室側が準備をする。
  • 発表者にはテーマにかかわる基礎事実、関連データの丹念な収集と整理をさせる。
  • 発表する内容がまとまった段階で、ラフな発表を研修室側相手にやってもらう。
  • 聞き手にとってインパクトのない方向性が出た場合は、差し戻しをする。
  • 経営者の肺腑に届く方向性が出揃うまで行ったり来たりを繰り返す。
  • この部分で研修室側が努力を怠るとつまらない内容の発表会になる。

 (発表会)

  • 社内屈指の批判能力の高い聞き手Aを用意する。
  • 社内屈指の肯定能力の高い聞き手Bを用意する。
  • 発表までに「レジュメ」を聞き手A、Bに配布し目を通してもらっておく。
  • 発表時間を30分程度に区切り、その3倍の時間を質疑にあてる。
  • 質疑はAとBが交互に否定、肯定の確度から繰り返し行う。一問一答ではなく「関連質問」に時間を割く。
  • 経営トップには(発表会の)質疑の時間帯だけに入ってもらう。

 (このやりかたの特徴、効用など)

  • 質疑はスリリングな時間になる。
  • 発表者は、否定の時間帯は冷や汗をかく。
  • 発表者は、肯定の時間帯には涙が出てくる。
  • 質疑中の自分の言動を経営トップに見られる衝撃は計り知れない。
  • どんなに自惚れの強い人も「謙虚」にならざるを得ない。
  • どんなに謙虚さの強い人も「自信」をもたざるを得ない。
  • 経営トップは、未来の自社に対して明るいイメージをもつだろう。
  • 未来の発表者たちを招待して聴衆とすれば、彼らにも強い刺激になる。

 宮本武蔵、佐々木小次郎によってなされた巌流島の決闘は、命をかけた御前試合だった。

 生き死ににつながるこうした時間が人を鍛える。安全無害な座学は人を鍛えない。「巌流島の決闘」の巧妙なプログラム化がプレゼンテーション・イベントである。

コメンテータ:清水 佑三