人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

東京海上日動
エキスポ型就職セミナー開催

2005年12月16日 保険毎日新聞 朝刊 3面

記事概要

 東京海上日動は、東京都渋谷区にある自社の「千駄ヶ谷能力開発センター」で12月5日から16日まで平日10日間の午前、午後2回、エキスポ型就職セミナー「東京海上日動MARINERセミナー」を開いた。エキスポ(=万博、見本市)型の名称は、14のテーマ別コーナーが会場に設けられ、参加者が好きなコーナーに入れるところからつけられた。2000年からスタートし今年で6回目。今回のようなエキスポ・スタイルは去年から。今年は受け入れ体制をより広げ、入れない学生がでないように配慮している。同社人事企画部採用・能力開発グループの中尾誠樹課長は「(このセミナーでは)就職活動の様々な段階にいる学生の誰もが何らかのヒントを得られるように工夫している。重要なことは受動的に説明を聞くのではなく、自分の考えで主体的にテーマを選ぶこと。セミナーの作りは仕事軸よりも人間軸に重心を移し働く上での楽しさや大変さなどを伝えたい」と語った。初日の12月5日は約300人の学生が集まった。昨年以上に好評である。

文責:清水 佑三

リクルータ制度がもっていた価値を思い出させる

 保険毎日新聞の東京海上日動の採用広報に関する記事である。東京海上日動(採用担当)の話として次のようなコメントが紹介されている。

…仕事に対するイメージと仕事に就いてからの実情とのミスマッチにより、入社3年以内に離職してしまう人が現在、約30%いるといわれており、社会問題化しようとしている。

…就職活動中に、かりにその会社の社員の実体験に基づいた話がよく聞けたら、イメージと実情とのミスマッチを防止することが可能なのではないか。

 東京海上日動に見られるこうした社員との対話重視型、教養型の就職セミナーの隆盛は、就職ナビ、Webエントリー、Webテストとつづく応募、選考プロセスの電子化の流れを受けてのことと思われる。

 恐ろしいスピードで、応募、選考、内々定となれば、入社後のミスマッチを自動予約しているようなもの。応募にいたる前工程で、「インターンシップ」や「就職セミナー」をいれて、意識的に長い同棲期間をもとうとする試みといえなくもない。

***

 記事によれば、東京海上日動の就職セミナーの14個のテーマは、大別して次の4つの(エキスポ的な表現をとれば)「館」に分かれる。

 第1の館 社員によるトークコーナー

  • 理系出身社員が話す
  • 海外留学経験のある社員が話す
  • 女性全国型キャリアの社員が話す
  • 3年目の地域型キャリアの社員が話す
  • 3年目の全国型キャリアの社員が話す
  • 6年目の地域型キャリアの社員が話す
  • 10年目の全国型キャリアの社員が話す

 第2の館 採用担当者、内定者によるアドバイスコーナー

  • 業界研究・自己分析などの仕方を採用担当者がアドバイス
  • 内定者が昨年の自分の経験からアドバイス

 第3の館 会社案内コーナー1(東京海上日動)

  • 損保会社の役割・使命
  • 損保会社の仕事内容
  • 東京海上日動の人事制度や支援制度

 第4の館 会社案内コーナー2(グループ企業)

  • 東京海上日動あんしん生命
  • 東京海上日動システムズ

 1〜4の4つの館のうち、セミナーの開催趣旨を勘案すれば、(1)の社員によるトークコーナーが中心の位置に来るのだろう。そこでの話の軸を「仕事」から「人間」に移す、という同社採用・能力開発グループの中尾誠樹課長のコメントは何を意味するのだろうか。

***

 次のような仮説が潜むと想像する。

  • 仕事についての理解を求めるだけであれば、ホームページに上手な説明を載せれば、一定程度、目的は達成できる。文字だけでなく、映像の力を借りればさらに理解は十全なものになる。
  • 説明の内容は、他の仕事と比べてその仕事のどこがどう違うか、についての概念的なものになる。その仕事において特徴的であることをうまく表現できているかがポイント。
  • よくできた説明を通して、100%仕事を理解したと思って入社しても、人と仕事のミスマッチ感の忍び寄りは防げない。なぜだろうか。
  • そこに生身の人を登場させると、風景は一変する。同じ仕事をしているはずの3年生、6年生、10年生社員はまったく違った仕事の面白さや難度に言及する。
  • 前線での苦労をそのまま持ち込むような、整理されていない訥々とした話し方がかえって話に真実味を与える。
  • 面白い取引先があって、面白い人がそこにいて、理不尽だか理不尽でないのかわからない悲喜こもごものシリアスなドラマが向こうからやってくる。
  • 聞いていると自分がそこにいるような気分に襲われ、ついつい笑いと涙を誘われる。そうかそんな毎日なのか。
  • 話している人(の生き様)に共感できる。仕事のことはほんとはよくわからないが、少なくとも目の前にいるこの人となら一緒にやれそうだ。

***

 ビジネス心理学によれば「共感性」なるものは次の3つの種類に分かれる。

  1. 概念共感性…考え方に共鳴する。
  2. 手順共感性…やりかたに共鳴する。
  3. 人間共感性…そこにいるその人に共鳴する。

 新人がどの種類の共感性によって入社したかをサイコメトリック(計量心理学的)手法によって個人別に調べ、次に入社1年後の新人たちの会社・仕事・職場に対する「機嫌の悪さ」の度合いを調べる。

 結果が出る。概念共感性で入社してきた人たちがもっとも「機嫌が悪い」。手順共感性による入社組がその次につづく。その距離はあまり離れていない。

 ずっと離れて、個人共感性がくる。いいかえると、個人共感性を媒介にして入社した人たちは一年後でも入社時と同じく「機嫌が悪くない」。

***

 電子広報、電子選考のない時代、多くの企業はリクルータ制度で新人を採っていた。「個人共感性」を無意識で使っていたのだ。

 その結果、同期入社組の横のつながりとともに、自分を評価してくれた先輩リクルータたちとの縦の強固なつながりがうまれ、磐石な縦横の信頼のネットワークが生まれた。

 日本企業の本当の意味での強さの源泉はそのあたりにある。

 東京海上日動は、エキスポ型就職セミナーという名前で、昔あったリクルータ制度を上手に復活させたともいえる。トークの中身を「アドバイス」といっているあたりにそれがよくでている。

 この方式は、離職率の改善だけでなく、心理的な意味での定着率をより高めるに違いない。

コメンテータ:清水 佑三