人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
ベルシステム24
新教育プログラム 社風学び一体感醸成
管理職中心 中途急増で導入
2005年12月9日 日経産業新聞 朝刊 23面
記事概要
コールセンター大手のベルシステム24は、昨年8月CSKグループを離れ、日興コーディアル系の投資会社NPIホールディングの完全子会社になった。それを機に、企業の合併・買収などを通して、製薬会社の治験支援やコンテンツ制作など事業の多角化を進める方針。それに伴い、より「社内の一体感」の醸成が必要との見地から、来年1月に全社員約2万5000人を対象に「ベル・ヴァリュー・プログラム」という名の社員教育プログラムをスタートさせる。第一弾では、あるコールセンターの業務改善事例(1時間のビデオ教材)を使って「自社の価値」「コールセンターは顧客に何を提供する仕事か」などについての討論型研修を計画。最初はコールセンターの課長、オペレータのリーダー層約1500人を対象に実施するが次第に対象層を広げる。さらに、来年中にはコールセンターの現場実務を知らない管理職、中途を含む新入社員を対象にコールセンターのオペレータ業務を体験させる研修を開始する予定。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
“Dialogue”による価値の創造とは
コメンテータ:清水 佑三
ベルシステム24のホームページに載っている社長、園山征夫氏の「ご挨拶」のタイトルは“Dialogue”を通じて価値を創造します、である。これからの企業の成功の鍵は「お客様の声を聴く」ことにあります、と書いている。
よくわかる話だ。たとえば、ある特定の新製品を買った数千、数万のお客様が、同一のトラブルを抱えたときに、コールセンターのファックスや電話はなりっぱなしになる。
顧客との対話になれないメーカーの開発エンジニアが個々にそれに対応したのでは、口のききかたの不適切さに代表される「対話ミス」が頻発する。
…使い方がおかしくないか?バカなことをいうんじゃないよ。おまえの会社の製品をずっと買ってきた人間にいうセリフかよ。オミオツケで顔洗って、でなおしてこい。バカ。
製造者責任だけで片付かない二次災害である。ブランドイメージは確実に悪くなる。ブログ・メディアが「悪口ウィルス」の伝播を加速させる。
自社のよいイメージを植え付けてゆくのには長い時間が必要であるが、イメージを壊すのは1人の社員の一瞬の「口のききかた」で事足りるのである。交通事故で一瞬にして生命を奪われるようなもの。
企業防衛上、どこよりも品質の高いコールセンターにアウトソースする、は必須の命題となる。
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ところで、“Dialogue”による価値の創造、とは具体的に何をいうのか。一消費者の立場にたって、困ってコールセンターに電話をした経験から、想像してみたい。
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3と4については自分の言い方が悪くて伝わらないのかも、とも思ったりして、(いらいらしても)相手を否定するような気分にはならない。電話一本でそんなに簡単に片付くように世の中はできていないと知っている自分が(どこかに)いる。
将棋でいえば「王手」がそう簡単にかけられないのと同じ。「ソリューションズとは遠くにありて思うもの」は心の中に万民がもつ感情だろう。
1は、高速出入り口の渋滞問題と同じである。オペレーションズリサーチの「待ち行列理論」を使えば、一定程度の改善は見込める。あとは平行して走る新道路をつくるか、道路幅を広げるか、の投資対効果の基盤整備の問題が残る。
2は、まさにベルシステム24が取り組もうと考えている重要な問題だ。コミュニケーション・スキルを徹底トレーニングしても残る問題である。要約すれば、(かりに問題解決が十分でなくても)電話の相手からお礼をいわれる心ある対応を保障するものは何かという問題である。
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かりに、あるコールセンター拠点の評判がずば抜けてよい、という場合、次のようなことが考えられる。
牧師、教師、医師、弁護士…などの仕事の適否をクリティカルに左右するのは、専門的、技術的な知識、技能ではない。それは職業上の最低の要件、条件である。
あえていえば「対話道」の精神である。
相手が置かれている立場に対する完全なる理解、苦しんでいる相手に少しでも力になってあげたいという気持ち、それが前提になる。人を相手にするすべての職業において、ゆきつくのは「対話道」という世界である。スキルではなくスピリットとかセンスの問題。
「対話道」の免許皆伝者は次のようなスピリットとセンスをもつ。
ベルシステム24は、25000人の全社員が「対話道」に精進する道を社是として選択したのである。
この道には厳しく遥かなるものがあるだろう。しかし、この仕事に臨む以上、正しい選択だと思う。利休の「一期一会」が参考になろう。