人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
市・区役所
トヨタ自動車流目標掲げ ここにも「評価」
2005年11月10日 毎日新聞 朝刊 11面
記事概要
愛知県豊田市はトヨタ自動車の企業城下町。同市は、トヨタの業務改善運動「カイゼン」にならって、職員が決められた用紙に仕事の見直し案を書いて上司に提出する「改善提案」を制度化している。提案数は02年度の850件から04年度は約2000件に増えた。人事課の古澤彰朗係長は「受身だった職員が組織全体を考えるようになった」とこの制度の効果を強調した。こうした市・区役所の人事制度改革の動きは東京都千代田区で顕著だ。同区は02年度から、管理職を対象に勤務評定の結果を年2回の賞与に反映させるようにした。部長級で年間114万円の格差がつく。03年度からは各部が希望する他部の職員をリストし、部長間会議にかけて異動を行う「ドラフト制度」を導入した。人材を輩出する部が自然に浮かびあがる仕組みだ。「そういう部をつくった管理職」により多くの報酬を与えたいと石川雅己区長は語る。市・区役所の「カイゼン」は徐々にではあるが歩みはじめている。
文責:清水 佑三
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住民が住む町を選ぶ時代へ
コメンテータ:清水 佑三
(財)自治体国際化協会のロンドン事務所に勤務しておられる安藤明氏が「イギリスの地方自治制度改革の最近の動き」というタイトルの文書で、イギリスにおける地方自治体の業績評価法(ベスト・バリュー制度)を紹介している。5年前に書かれているが年をとらないよいリポートだ。
ベスト・バリュー制度とは、市町村ごとに、ホテルの星印のように簡明で住民にわかりやすい評価点をつけようとという考え方である。
(木を見て森を見ない危険を避ける意味で)当時のイギリスの状況に言及しておく。安藤氏はこの文書の冒頭で、この改革を主導した人として、英国政府の交通・自治・地域担当相であるスティーブン・バイヤー氏の名前と業績をあげている。
バイヤー氏のもとで発表された地方自治体改革に関するホワイト・ペーパー(白書)は、次の2部構成になっている、という。
第1部
第2部
筆者がもっとも強い関心をもつ第1部第2項の地方自治体の業績評価制度について、安藤氏の語るところに耳を傾けたい。地方自治体の行政サービの適否をきめる評価基準は次のとおりだ。★の数が業績の多寡を意味する。
(評価基準)
★★★★自治体
政府が指定している健康、教育、交通、防犯の4優先分野で良好な実績をあげており、かつ、優先分野以外においても実績が悪くなく、今後も実績改善を行う意欲と能力をもつ自治体
★★★自治体
現在、必ずしも良好な実績をあげているわけではないが、積極的な改善意欲と努力を行っており、今後、時間の経過とともに良好な実績が期待できる自治体
★★自治体
現在、良好な実績をあげておらず、改善への取り組みも積極的ではなく、今後、実績の改善が大きくは期待できない自治体
★自治体
過去一貫して低調な実績しかあげておらず、今後も実績の改善がほとんど認められないであろうと思われる自治体
(誰がどう評価するのか)
この部分についての詳しい説明はない。政府が自治体から独立している第三者からなる監査委員を指名し、それら委員からなる監査委員会が定期的に監査報告を行うとしている。その際、誰もが一目瞭然でわかるようにスコアカードを使う、となっている。スコアカードとは相撲の星取表のようなもの。
(評価に基づく政府の処遇)
★★★★自治体
★★★自治体
★★自治体
★自治体
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記事に戻ろう。紹介されている豊田市が標榜しているのは職員に対する「能力・成果主義」の積極的な導入である。すでに99年度に部課長を対象に成果主義型の人事制度を導入した。徐々に対象範囲を拡大し、ついに今年度は新規採用者まで対象をひろげた。一般企業でもなかなか踏み切れないレベルの改革である。
朱に交われば朱くなる、のたとえどおり、まさにトヨタ自動車の「カイゼン」パワーが地方自治体にまで及んでいるのだ。
豊田市の成果主義型の人事制度は、普通の企業が普通に導入している目標管理制度と同じである。部ごとにつくる期首目標をもとに、課、係、個人の目標を明確にする。その達成度合いによって評価点をつけ、係長以上の役職者については報酬に反映させる。
役がつかないヒラ職員への反映については市はためらっている。「若くしてダメ職員のレッテルを張られ、やる気をなくす者がでてくる」という反対論が根強いため、という。
同じような抵抗は84の(市営)幼稚園、保育園の教諭、保育士約700人への成果主義型人事制度の導入でも起こっている。来年4月からの導入を計画しているが、市職員労組の反対にあって前に進まない。
労組の反対理由は(記事によれば)次のとおりだ。
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イギリスに話題を戻す。ブレア政権は、義務教育の(日本でいう)小中義務教育の教師全員に対する意識改革を最大の国家政策課題の一つとして強力にコミットしているのは周知のとおり。教育、教育、教育、教育改革が喫緊の国家課題だと連呼している宰相だ。
小中教師のプレゼン能力、問題解決スタイル、担当クラスのクライメット(雰囲気のようなもの)の三つについて、自己評価点と生徒による評価点のつきあわせを行い、自分の仕事ぶりに点数をつけて職務の目標を明確にせよ、と研修プログラムを通して迫っているという。(この項、品川区教育委員会教育長、若月秀夫氏による)
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豊田市職員労組の反対はこうした透明化、合理化への努力を否定する働きがある。明らかに時代ニーズに逆行している。守旧、抵抗勢力として魔女狩りにあう素地を自らつくっているような気がする。
トヨタの企業城下町で起こりつつある「改革」は、ジワジワと全国に波及するだろう。悪貨は良貨を駆逐する、というが、その反対もある。よいものはよい、として静かに確実に何かが変わってゆく。
官の「自己保身」エネルギーが、タックスペイヤーの「歳出の透明化、合理化要求」エネルギーによって少しまた少しと粉砕されてゆくのである。
毎日新聞のこの記事はそういう明るい社会のうねりを伝えてくれる点で読み手の気持ちを好転させる効用がある。よい記事だ。