人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

NTTデータ 人事評価制度を刷新
ITスキル標準と連動 社員の能力 職種別にレベル付け

2005年11月1日 日刊工業新聞 朝刊 10面

記事概要

 NTTデータは、新しい人事評価制度=プロフェッショナル・キャリア・デベロプメント・プログラム=を構築し、10月からプロジェクトマネジャー職を選んで先行実施に入った。将来的なビジョンとして5年後以降をメドに、現在の職能等級制度と差し替える。新制度の特徴として、(1)経済産業省が定めたITスキルと連動させる、(2)全社員の90%が含まれる6職種、6レベルで具体的なスキル定義を行う、(3)一律で行っている人月単価見積もりをレベル別人月単価見積もりに置き換える、(4)スキルチェックは年2回、上位レベルの社員が目的的面接を行って行う、(5)会社は必要な人材の過剰度、不足度が俯瞰できる、(6)社員は自分のキャリアパスを「習得すべきスキル」の形で指標化できる、など。この新制度を通して、人材育成、最適人材配置、納得性の高い報酬制度に貢献できる。

文責:清水 佑三

一律人月請求方式への危機意識がほのみえる

 日刊工業新聞はNTTデータの人事評価制度に関心をもっている。今年の8月26日にも「管理職育成で2制度」という見出しの記事を載せている。1人の記者が強い問題意識をもってNTTデータを追いかけているのだろう。署名入りにしてもらえるとありがたい。

 この記事の意味と価値を理解するためには、経済産業省が定めたITSSについての知識が必要だろう。ITSSのITは「情報技術」、SSは「技能標準」の意味。一言でいえば、情報技術分野の技能標準体系をいう。

 ITSSは、11の職種を定義している。それぞれに簡単な説明を加えておく。

1 マーケティング 儲ける仕掛け、仕組みを構想する人
2 セールス 課題解決策をプレゼンする人
3 コンサルタント 課題解決策をひねりだす人
4 ITアーキテクト 課題解決策をシステム方式に置き換える人
5 プロジェクトマネジメント 楽して儲けて尊敬されるようにプロジェクトを指揮する人
6 ITスペシャリスト 情報技術の問題を発見、対応できる人
7 アプリケーションスペシャリスト 情報技術を顧客業務に適用できる人
8 ソフトウエアデベロップメント ソフト商品を企画、仕様設定、製作、テストできる人
9 カスタマーサービス 顧客へのカスタマイズ、導入支援、保守、修理、相談室ができる人
10 オペレーション システムの傍らにあってそれを運転する人
11 エデュケーション 全関係者の意識、知識、技能向上のインフラをつくる人

 よくよく読んでいくと、ITの世界に限らないことがわかる。この11の職種は次の4つに大分類できる。仕事地図に関心がある人には有益だと思う。

 タイプI職群 世の中全体の動きがわからないと勤まらない仕事(マーケティング、コンサルタント)

 タイプII職群  殺し文句がつねに言えないと勤まらない仕事(セールス、プロジェクトマネジメント、エデュケーション)

 タイプIII職群  顧客業務とシステムの両方を知悉していないと勤まらない仕事(ITアーキテクト、アプリケーションスペシャリスト、カスタマーサービス)

 タイプIV職群 システムオタクでないと勤まらない仕事(ITスペシャリスト、ソフトウエアデベロップメント、オペレーション)

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 IT業界を取り巻く市場環境は、年々歳々、日々刻々、厳しいものになってゆく。従来のドンブリ勘定、かかればかかっただけ請求、のやりかたが許されなくなった。結果としてプロジェクト単価が下がり続ける。

 すでに車検工場で起こっていることだ。従来の車検は、一応の見積もりはしてくれるが、調べてみたらこことここが不具合でといって、初期見積もりの5割増しの請求になったりした。顧客の立場ではたまったものではない。予算が組めない。

 この記事中にある職種・レベル別に人月を計算して見積もる方式とは、提供される品質の結果保証方式といいかえられる。これだけの技能をもった人がこれだけの日数、仕事にあたれば確実にこの「製作物」を提供できます、追加工事は不要です、が隠された意味である。

 NTTデータの人事評価制度の刷新案は、公平に人事考課をと考える人事畑の人たちからは浮かばないものだ。100%経営的な発想である。

 顧客への請求方式の抜本的な見直しができない限り、業界の将来は暗い。それを成し遂げるために、経済産業省が定めた「技能言語」は使えるとみたのである。人事評価制度としてやれば根付くとみた。この認識は正しい。

 天下分け目の天王山となるのは「スキルチェック」に使われる上司の「面接」のやりかたである。大相撲の横綱総見くらいの緊張感がないとダメだ。

 たった1人の上司の短い時間の「面接」で、本当の意味での技能の評価は難しい。なぜなら上司、部下間の「面接」は、双方の意欲形成と意識(思い込み)の交換の場であり、刑事、検察のようなファクト・ファインディング(裏付けとなる事実の収集)の要素は入れにくいからだ。

 面接技術研究に携わる立場から上司集団の「面接改革」を徹底的にやらないとこのチャレンジは挫折する、と直感した次第。

コメンテータ:清水 佑三