人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
北海道 全職員の給与削減提案
財政危機受け組合に 1人平均年間115万
2005年10月25日 読売新聞 夕刊 1面
記事概要
北海道(庁)は10月25日、約8万人の全(北海)道職員の月給を10%、期末・勤勉手当を15%それぞれ削減することなどを盛り込んだ給与削減措置を自治労全道庁労組など職員団体に提案した。提案にはこれ以外にも管理職手当の20%削減、退職手当の5%削減、導入予定の査定昇給の特別昇給相当分の凍結も含まれている。知事、副知事、出納長については、25%、20%、20%月給と期末手当を削減し、その他の常勤特別職については月給15%、期末手当18%、退職手当10%削減する。措置対象期間は2年間。全道庁、北教組、自治労道本部で構成する「地公三者共闘会議」は、あまりにもひどい内容だと反発している。交渉に入る前提として(1)財政危機の原因は人件費ではないことの明確化(2)労使合意を前提とし、一方的な条例提案は行わないこと、などを要求した。
文責:清水 佑三
HRプロならこう読む!
一律カットの時代は終わった。ワークアウトがよい。
コメンテータ:清水 佑三
悲運の座礁・沈没によって僅か1年7ヶ月の寿命を閉じた幕府軍艦「開陽丸」、かもめの鳴く音に、ふと目をさまし、あれがエゾ地の山かいな、の民謡「江差追分」で有名な北海道、江差町ホームページに次のような記述がある。
…町の財政が厳しいことは、これまで広報誌の財政状況や決算報告、町政懇談会等でお知らせしていますが、国からの交付税の削減、長引く不況の中で町税収の減少など厳しい状況が続いています。このままの状態が続くと、将来的には国の管理下におかれる財政再建団体への転落という危険性があります。
北海道は、財政再建団体への転落を回避するため、06、07両年度で1800億円の歳入不足改善を迫られている。月給の引き下げを求めた(道)人事委員会勧告とは別に、さらに厳しい給与削減策をまとめて組合に提示した背景にはそれがある。
江差町ホームページに戻ろう。
…財政再建は、歳出の抑制が柱になるもので、人件費の抑制、公共施設の統廃合、歳入の確保、事務・投資等の事業の再構築、公債費(町の借金)の抑制、水道等の公営事業の経営健全化、行政経営システムの確立を重点項目として、再建プログラムの推進を図ります。
***
この欄で言いつづけてきていることであるが、国、県(府、道)、市(町、村)の歳入、歳出構造は基本的に相似形をしている。もっとも小さいサイズの町村に起こっていることが、県、国で起こっているとみてよい。中央集権国家はみなそういう形をしている。
江差町という面積109平方キロ、人口1万人あまりの町の収支の構造がそのまま県、国の構造なのだ。江差町は、財政再建のための施策のトップに「人件費の抑制」をあげている。それができるかどうかにすべてがかかっているという認識をもっている。
北海道は、8万人の道職員の雇用を優先し、月給・期末手当・勤勉手当の一律カットをもってそれをしようと考えている。
それに対して別なアイデアがある。竹中平蔵経済財政政策・郵政民営化担当大臣は、10月29日の産経新聞中川真記者との一問一答で、「財政改革」について大略次のように述べている。金融改革、郵政改革でもっとも苦労してきた人の言や重し、である。
「小さな政府をつくるためにはワークアウトが必要だ。不要な業務の追い出しだ。絶対やらねばならない。(略)政府が自分で自分の仕事を減らせるか疑問がある。(略)打ち出の小づちはないが、(改革メニューに)役所の仕事を入札させる『市場化テスト(官民競争入札)』を組み入れれば、かなりのインパクトがあると期待している。(その)対象範囲を思い切り広げるべきだ」
市場化テストという言葉に馴染みがない人も多いだろう。小さな政府を志向する米英で80年代に登場したワークアウトの具体策である。
わかりやすい例でいえば、刑務所の維持・運営の委託先を官民オープン・コンペで決める。結果として囚人へのサービスの向上と国民負担(経費)の軽減という一挙両得がはかられる。
竹中平蔵は、米英にならって大胆にこの制度の導入を図れば、小さな政府への道筋が見えてくるといっている。道路。上下水道、生活廃棄物、医療、福祉、教育など防衛、治安を除くあらゆる歳出分野が視野に入ってくる。
ついでに竹中平蔵の役人観にふれておく。産経の中川真記者への一問一答中のコメントにある。
「どんな改革も同じだが、総論賛成でも既得権を失う当事者は各論で反対する。改革の本質だろう。(略)与党圧勝でも霞ヶ関は変わっていないとみる。(略)民意を反映しているのは、選挙で洗礼を受けた政治家。官僚は官僚の価値観、方程式で行動しており、選挙結果で変わることは期待できない。政治のリーダーシップ、役割が求められている」
小さな会社の社長をやっていても同じ感慨を禁じえない。抜本的な改革をしようとすると、総論大賛成であった当該セクションの部、課長が必至な抵抗を試みはじめる。
改革大賛成の御旗を高く掲げておろさず、自ら改革推進委員となって「内側からブレーキをかける」。委員会の場で改革の矛盾を次から次へと出してきて改革丸を座礁、または停泊させるのだ。
***
全道庁、北教組、自治労道本部で構成する「地公三者共闘会議」は、交渉に入る入り口にバリケードを築いた。
がそれである。共闘会議の訴えに耳を傾けたい。3年前に同じことをいっている。2002年12月25日づけ「地公三者共闘会議」名の提言から引用する。
…「非常事態宣言」以降この4年間の緊縮財政は、市町村や道民、そして私たち道職員やその家族に多くの「痛み」を強いてきたが、結果として道の対策は実を結んでおらず、財政危機は続いている。こうした経過を経て、今回の新たな「賃金切り下げ」と「職員数削減」の提案にあたっても、知事は自らの「経営責任」「使用者責任」にはまったく言及しないままであった。
…私たちは、知事にこうした提案をする前に、財政危機の克服に向けてこれまでにどのような努力をしてきたのか、また、今回の提案によって3年後に道財政の危機から脱却できるのか、その将来展望を、まずもって明確に示す責任があると考える。
共闘会議は、自分が悪かった、ゴメンといってから人件費カットを目的事項とする会議テーブルにつけ、といっているのだろう。ゴメンといった側の意見が会議で通るはずはない。バリケードとはそういう意味だ。
***
この道はゆきどまりになっている。改革が頓挫する一つの典型的なモデルがここにある。
サッカー、野球でチームが負けつづけているとして、フロント、監督、選手が「責任の明確化」を迫りあう構図である。
あらためて竹中平蔵のいうワークアウトを真剣に考えるべきだ。筆者にはこの道しか「道」にはゆくべき道がないと考える。