人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

セブン−イレブン・ジャパン(14)
=実力主義の人事制度 評価方法ガラス張りに

2005年4月19日 日刊工業新聞 朝刊 3面

記事概要

 セブン−イレブン・ジャパンでは加盟店の店主を経営指導するOFCと呼ばれる人たちの仕事ぶりが全体の経営成績を左右するとみている。ひとりのOFCは平均8加盟店を担当し、店主に対していかに適切な影響力を行使して利益率をともなった売上を増やすかに日夜腐心している。OFCへの評価制度は、担当店の売上の伸び、店主からの信頼度アップ(360度評価)、他のOFCからの尊敬度アップ(会議における分析発表)、OFCを束ねる課長(DM)の評価アップの4つの基準の上に構築されている。評価は処遇に反映され、同じ入社年次の25年勤務の層を例にあげると、最低680万円、最高1300万円の年収格差をつくっている。特筆すべきなのは、すべての評価にプロセスチェック(過程の点検)の視点が貫かれていることだ。こうした評価制度を導入、推進する背景には加盟店が儲かることが先決であり店主の満足をもたらすことができないOFCは存在理由がない(失格)という透徹した認識がある。このOFCに対する徹底した実力主義の評価制度がセブン−イレブン・ジャパンの強さの隠れた秘密といっても言い過ぎではない。

文責:清水 佑三

鈴木敏文の経営哲学の結晶がここに示されている

 この記事には、セブン−イレブン・ジャパンを立ち上げ、ここまでもってきた鈴木敏文の経営哲学といってもよいものがちりばめられている。ランダムにあげてみよう。( )内は筆者の補注である。

  • 実力主義を貫くこと自体が公平な評価
  • 出る杭をひっぱりあげる(のが経営の力)
  • 評価制度はガラス張り(に意味がある)
  • 能力主義の精度と比率を(不断に)高めてゆく(ことが大事)
  • 数値とプロセスに分けて評価する
  • 評価の核はセルフチェック制度
  • 仕事ぶりを上司とともに評価する格好
  • 客観性の高い二重、三重の体系
  • セルフチェック、プロセス評価を通じて立体的に評価される
  • 上長が主観的に評価しようとしてもできない(仕組みをつくる)
  • (結果として)処遇に対する納得感がでる
  • (処遇に不満をもたなくなると)それだけ業務に臨める
  • 加盟店あってのFC本部という発想(がすべて)

 記事中にも一部指摘があるように、他社の評価制度との違いをあげると、

  • 加盟店主という(いわば)外部者の声を最大の評価情報としている
  • 到達数値ではなく、(売上の伸びなど)価値増加度を比較している
  • 同僚の尊敬度合いをガラス張りにし次期DM(課長)が浮きでる仕組みをつくっている
  • 成果をもたらす過程についての上司との共同スタディを重視している。納得感という点では最高
  • 会議におけるケーススタディの出来栄えを評価軸におくことで分析力重視の企業風土を醸成
  • 成果主義評価制度への懐疑的風潮を一蹴しさらなる「幅(範囲)と深さ(精度)」を追求している

 ここから鈴木敏文の経営思想がよみとれよう。以下のように要約したい。

  • 加盟店の店主間の繁栄競争の仕組みをつくることが目的
  • 8人の店主に1人のコーチがついて育成競争をさせればよい
  • 育成の仕方をウォッチして育成の実力をもつ人とそうでない人を見分ける
  • 育成の実力を個人のノウハウにとどめず発表させることで組織のノウハウに転化させる
  • 最後列者であってもきらずに世間並みの生活保障を約束する(村社会の実力主義)
  • 最前列者であっても世間からみて飛びぬけてよい処遇はよくない(同上)
  • 入社年次別の競争システムを崩してはいけない(条件が違うものの競争はプロの世界)
  • 結果、過程、数値、複眼、多層、自己概念をガラス張りにすることが評価の本質的契機
  • 評価制度は「正しい評価とは」を追及するためにだけ存在する。透明性と合理性が条件

 鈴木敏文に対して積年抱いてきたイメージを再確認している。彼がしたいことは経営というよりも「人間という摩訶不思議な存在」に対して「より確かな知識」を追求することではないのか。

  人の心と行動について普遍性をもつ知識を得る学問を心理学という。彼はそれ(=人とは何か、何ゆえに存在するのか、どこから来てどこへゆくのかの思索) を、文献研究や条件を固定した実験によらず、資本主義というグランドで1プレーヤーとしてプレーすることで行っているのではないか。

 あくなき真理への追求が、彼をしてここまで透徹させたとみる。

 1人の類いまれな人間の生んだ類いまれな作品がセブン−イレブン・ジャパンである。

 鈴木敏文は、凡庸の経営者とはまったく次元の違う挑戦をしている、と思う。

コメンテータ:清水 佑三