人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

大和ハウス工業
部門ごと実務能力評価 来春導入 社員のスキル向上へ

2005年8月29日 日刊工業新聞 朝刊19面

記事概要

 大和ハウス工業は、社員のスキルアップにつながる新しい評価制度を、06年4月をめどに導入する。評価制度とあえて呼ばずに「社内認定制度」という呼称を採用した。認定制度は住宅営業、設計など各部門ごとに設け、職務で求められる要件を取り上げ、項目ごとに社員を評価する。この制度の導入を指揮している管理本部人事部長の河合克友執行役員はジグソーパズルを例にあげ「ピース一個一個を組み合わせ、全部できあがれば、たとえば住宅営業の一流営業マンになれるようなものにしたい」としている。具体的には、住宅営業では住宅ローンを使いたい顧客に対する説明の仕方について、個々の営業マンについて具体的にできている点、できていない点が浮かびあがる。実務能力を細かくみることによって会社からみて正しいことを正しくやっている営業マンに自信を持たせる制度としての活用を考えている。

文責:清水 佑三

評価制度を変えると利益が出てくる

 先週に引き続いて日刊工業の記事をとりあげる。この記事も本文38行で情報量としては少ないが、キラリと光る内容をもっている。記事中で秀逸なのは次の文章である。

…日常の業務に落とし込み、できている点とできていない点を示し、スキルアップにつなげる。営業系社員では契約成績だけにとどまらず、実務能力を細かく見ることにより、社員に自信を持たせる制度としても活用する。

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 大和ハウスのここ3年の成績をみると、連結ベースで営業利益率5%の壁を越えられない。3.8%→4.8%→4.9%で上昇カーブを描いているが5%の障壁がある。事業の6割は住宅事業であり、鉄骨プレハブ工法を中心に民需を対象にしている。

 自動車最大手のトヨタ自動車が(連結で)ほぼ倍の営業利益率を確保しているのと比べ考えさせられるものがある。

 目を他の住宅メーカーに転じてみよう。住宅首位で同じ鉄骨プレハブ主力の積水ハウスは、同じく連結でここ3年、5%以上の営業利益率をあげている。(5.5%→6.0%→5.5%)

 日本最大の山林をもつことで有名な住友林業は、戸建て軸組工法の木材系大手であるが、大和ハウスの半分の営業利益率でここ2年推移している。

 自動車→住宅(鉄骨プレハブ)→住宅(木材軸組み)と利益構造が半分づつ低くなっているのは、多様な要因が考えられるが、その一つに(個々の取引にかかわる)「手離れ」のよしあしがあるとみる。

 一つの車、一つの家が作り手から使い手に所有権が移転するときの「時間」「手間ひま」のかかりかたの違いである。

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 大和ハウスが導入を企図している評価制度の本丸は「営業利益率の抜本的な改善」である。次のような議論があったに違いない。

  • 今まで営業系社員は契約成績を中心に評価されてきた。
  • 会社の利益率アップへの貢献度という視点が弱かった。
  • それが営業利益率の頭うちになっている理由ではないか。
  • 契約成績ではなく利益率を中心に評価制度を考えたらどうなるか。

 ここで、契約成績は中位であるが、利益率の高い契約をとりつづけている営業系社員(A)と、契約成績は抜群によいがとってきた仕事の利益率という観点からみると「?」がつく営業系社員(Z)の日常業務のありかたについての比較研究が行われる。

 次のような事実が浮かびあがったとする。

  • Aは商談をスタートしてから契約を結ぶまでの時間が長い。しかし、契約から納品までの時間は短い。Zはその逆。
  • Aは納品後のクレームがまったくないが、Zは納品後に顧客からのクレームが多い。
  • Aは売上債権の回収事故が1件もないが、Zでは回収事故が比較的多い。
  • Aの顧客を分析すると地域、年齢、年収、家族構成が似ているが、Zの顧客はバラバラである。
  • Aに対する設計、現場管理、外部取引者の声は一様に「仕事がやりやすい」であるが、Zに対する声は「無理難題をいってくるので困る」である。
  • Aの残業時間が平均よりも少なめであるが、Zは平均よりもかなり多い。
  • Aの業務知識に関するeラーニングコースの受講率、修了率は「極めて優秀」であるが、Zは受講率、修了率ともに平均以下である。

 AのコストパフォーマンスとZのそれとの比較研究が続く。シミュレーションの結果、A型社員100人からなる仮想チームとZ型社員100人からなる仮想チームとで、部署別営業利益率に倍以上の差が認められた。

 ならば、契約成績だけで評価をしている従来の評価制度をやめて、認定制度という名前で、Aがとっている日常行動を規範として定着させようではないか。

 短い日刊工業の記事を読みとけば、以上のようになろうか。河合克友人事部長の「ピース一個一個を組み合わせ、全部できあがれば、一流の営業マンができあがる」とはそういう意味だ。

 大和ハウスは、一流の営業マンの定義を、売上をあげるから利益をあげるにシフトしたのである。こうした制度の導入、運用、見直しには最低でも3年かかる。やりぬくことができるかどうか。

 この評価制度をやり通したと仮定しよう。大和ハウスは「買い」である。

コメンテータ:清水 佑三