人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

名鉄
名鉄が新人事制度を導入 評価の基準社内に公開
連続「最低」で降格

2005年7月1日 中日新聞 朝刊 13面

記事概要

 名鉄は6月30日、従業員の処遇、評価にかかわる新制度の概要を発表した。新制度は7月1日から導入される予定。新制度の最大の狙いは、評価と処遇を直接的に関連づけるところにある。最低評価を2年つづけると「降格」し、高い評価をつづけると、従来よりも早く「昇格」できる。33の役割等級別に作られた評価の基準も社内公開し、結果も本人に通知する。また、今回導入した役割等級制に加えて、(1)総合職、一般職に加えて専門を生かした専任職区分を設けて人事コースを複線型とする(2)一般職から総合職への登用を可能にする(3)個々のマネジメント職の役割の違いによって賃金を変える、などのアイデアも検討しており、秋からの導入に向けて労組と交渉している。

文責:清水 佑三

重い機関車ほど走りだすのに時間がかかる

 社会人になってすぐのタイミングで愛知県江南市に住んだ。名古屋の中心部に通勤するのに名鉄さんの電車に乗った。お世話になった。その会社への批判は金輪際しない。

 名鉄は古い会社だ。創業は明治27年(1894年)である。傘下に犬山の「明治村」をもっているが、少しの違和感もない。

 「明治村」は楽しい場所で、就中「大隈重信と大隈記念館」にはよく足を運んだ。大隈の筆墨が残されていて見るだにあきない。「書」くらい人の気概、風格、テイストをあらわすものはない。福沢諭吉の墨痕も鮮やかであるが、大隈のそれも同じ。

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 古い会社ほど、役員名簿の並べ方に価値意識を投影するもの。

 四人専務制をとっている。四専務の記載の順序は、鉄道保守本部長、鉄道事業本部長、不動産事業本部長、関連事業本部長である。

 鉄道事業よりも、鉄道保守事業を上位においていることに注目したい。

 安全確保等を謳った企業倫理基本方針(名鉄グループ)の末尾に次のようなコメントがある。

 …経営トップは、万一、この基本方針に反する事態が発生した時は、自らが原因究明、再発防止に努め、社会に説明するとともに、その責任を明確にし、自らも含め厳正な社内処分を行います。

 人事制度は「新しきをもって尊しとなす」ではない。敬愛する人が使った言葉を借りれば、人事制度は部屋の壁紙の色のようなもの、派手で刺激的なのは困る。明るすぎるのもきつい。無意識のうちに心を和ませてくれるくらいがちょうどよい。言い得て妙だ。

 そういう意味で名鉄の新人事制度は壁紙の色でいえば、曙、海老茶、狐、とのこ、琥珀などの和名の色が思い浮かぶ。目に突き刺さらない。

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 大事なポイントは次の点だ。コメントを加えておく。

 (1)評価を処遇に連動させる。

 当たり前だが、(このことを)有言実行すればするほど、職場に緊張感が走るようになる。反則を2回やると退場となるスポーツのルールと同じだ。ぬ るま湯チームがいつのまにかぬるま湯チームでなくなる。Jリーグは入れ替えルールをもっているが、プロ野球はもっていない。下位のチームの緊張感に差が生 まれるのは当然である。

 (2)評価基準を開示する。

 ある学校がよい子、わるい子を言葉で表現したとしよう。そんな基準は受け入れられない、という親が必ず出てくる。転校させるしかない、となる。そ れでよい。多様な選択肢を用意し、あとは個々の人の自由に委ねることだ。それが「民」の論理だ。警戒すべきはダブルスタンダードである。社長の評価基準は 「求心力」と開示しながら、その反対の人が登用されたら、人心は萎える。

 (3)評価結果を本人に戻す。

自分のやったことについて誉められ、叱られることが、社会で働くことの意味と価値だ。誉められるから頑張る、叱られるから頑張る。評価結果を本人に戻 す、は仕事に「カウンセリングとコーチング」の視点を入れる、と同義である。それがうまくできない管理者は淘汰されてゆく。評価結果を本人に戻す、仕組み はそこまでゆく。

 (4)役割ごとに賃金を決める

 産経新聞の報道によって明るみにでたが、国立国会図書館長の待遇は国務大臣と同等という定めがあり、諸手当を加えた年収は3千万円を超すという。 これが役割ごとの賃金の具体的なサンプルである。こうして開示されると「どうして?」という声が起こる。是正が議論され、役割ごとの賃金はおおむね市場の 平均値に収斂してゆく。役割、賃金、実際の仕事ぶりがバランスしていれば、OKとなり、そうでないとクレームがでる。職場の精神衛生という面ではすっきり してゆき、みんなが仕事に集注できるようになる。

 決して新しいことをいっていないが、本筋にあたることをいっている。ためになる記事だと思った次第。

コメンテータ:清水 佑三