人事改革、各社の試み
HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。
日本テレコム
課・グループ撤廃 プロジェクト型組織に
2005年3月31日 日経産業新聞 朝刊 35面
記事概要
日本テレコムは(2005年)4月1日付けの組織改正で従来の固定的な課、グループ制を撤廃し、営業案件ごとに随時プロジェクトをつくって動くプロジェクト型組織をもとに事業推進することをきめた。こうした案件ごとにチームを機動的に編成するやりかたはコンサル会社では主流であるが、「事業会社では国内最大規模」(日本テレコム人事企画部)という。一人の社員が同時に複数のプロジェクトに入ることも認める方針で、特定の机を持たない「フリーアドレス制」もあわせて導入に踏み切った。コンサル会社出身の日本テレコムの倉重英樹社長が直接指示をだして実現にこぎつけた。新制度導入の背景には、通信回線の販売が主流だった同社を、法人顧客への社内ネット構築など高度の提案型営業中心の事業体に再編する狙いがある。
文責:清水 佑三
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モルトケ組織論の終焉を日本テレコムにみる
コメンテータ:清水 佑三
日本の大規模の事業会社で(名称は別にして)部、課、班制を抜本的にやめようというのは確かに珍しい。ただやめるだけではなく、営業案件ごとに機動部隊を編成する組織論も新鮮である。企業における組織とは何か、今後どうあるべきか、日本テレコムの変革事例を契機に考えてみたい。
今までの組織論を知る上でよいNHKのテレビ番組がある。NHKスペシャル「変革の世紀」第2回『情報革命が組織を変える』(2002.5.12放映)である。
この番組において(番組)制作者は、マサチューセッツ工科大学のトーマス・マローン教授の組織の変容をテーマにした研究成果を引用しつつ、従来のような軍事組織(ピラミッド型の命令・報告システム)の企業への適用という時代は終わったとみている。
(組織論のイロハを説くようで恐縮であるが)いわゆるピラミッド型組織をよしとする理論は、ドイツ北東部のプロイセン王国における(陸軍)参謀総長ヘル ムート・フォン・モルトケによって19世紀に創られたとされる。モルトケの組織論のエッセンスは次のように整理できよう。
モルトケの戦略論は、孫子の兵法とともに人口に膾炙しているが、注目すべきは戦略論よりも上に述べた組織論である。なかんづく、中央、前線、神経の三つの役割が明確に定義されていることだ。
企業でいえば、モルトケの参謀本部にあたるのがトップ、前線の兵士にあたるのが一般社員、伝達中枢にあたるのが管理職ということになる。
(世界の最先端企業がとっている実際の組織形態の変容を調べてゆけばゆくほど)ピラミッド型組織論は、歴史的な使命を終えたとするのがトーマス・マローンの主張である。
マローンが指摘する21世紀型の組織のイメージは、次のような番組中のナレーションと教授へのインタビューによってほぼつかめる。
−(宇宙空間の星が線で結ばれている図を映し)空間に浮かぶ白い球体が組織のメンバーである個人です。所属する部署はありません。一人ひとりがつながる丸い広場は個人が参加するプロジェクトです。広場は個人が自発的に結びつくことで次々と生まれます。さまざまな専門性をもつ個人が縦横無尽に結びつくことで新 たな組織のパワーが生み出されるのです。
−(現実の企業において具体的な)姿を見せ始めたマローン教授のいう21世紀型の組織、そこでは個人の裁量が大幅に認められるようになります。しかしその一方で、これまでのピラミッド型の組織とは異なり、自分の仕事や居場所は自分で確保しなけらばならなくなるのです。
−「新たな組織では自分自身で何をすべきかを探さなければなりません。その際、個人に求められるのは、やるべきことが決まっていない不安定な状況におかれても決して動じないという能力です。そして一見関係がないと思われる情報や誰もが当たり前だと見逃している情報の中に新たな価値を見出す力が問われることに なるのです」(トーマス・マローン)
新しい21世紀型組織の成功要件として、トーマス・マローンは次のように言及している。
日本テレコムが導入を図ろうとしているプロジェクトチーム型組織は、トーマス・マローンの描く未来組織図に限りなく近い。
このアイデアが実施に移されて、かりに挫折を余儀なくされるとしたら、上で述べたような成功要件を現在の日本テレコムが満たしていない場合だろう。
創造性の破片もなく真に自発的でもない社員は、いくらまってもプロジェクトに参加せよ、というお呼びがかからない。そういう現象が日常的におきたとき、会社はどのようになるのだろうか。
難度の高い挑戦の典型的な事例だと思う。