人事改革、各社の試み

HR領域のプロフェッショナルが独自の視点で新聞記事を読み解いたコラムです。元記事のジャンルにより、各社の改革事例紹介である「人事改革事例」編、改革のキーマンに焦点を当てる「ひと」編があります。2008年更新終了。

りそなホールディングス
仕事、評価同じならパートと正社員時間給を統一
「同一価値労働同一賃金」の原則

2008年3月14日 毎日新聞 朝刊 17面

記事概要

 パートの差別的待遇を禁じる改正パート労働法が4月から施行されるのを受けてパートを正社員化する金融や流通、サービス大手が増えている。一見すると女性が目立つ会社だ。りそなホールディングス(以下、“りそな”)の場合、パート全社員化の流れに乗らなかった。少数派に入る動き方である。りそなの人材サービス部の鶴田哲郎さんは、その理由を次のように語った。「理由は、二つある。一つは、正社員とパートの違いは何か、徹底的に考えたこと。そこから二つの仕事内容は重なっていても、それはパートの視点からみた場合であって、会社が社員に要求しているもの、(会社のブランドを守ろうとする、無限責任をいつも意識して対峙してほしい)与えられるミッションのようなものが違う。社員は、パートよりも、会社の方をむいて仕事して欲しい。二つ目は過去の経験から得た知恵である。りそなは05年にパートからの社員転換制度を設けてここまで実施してきた。いろいろな読み違いがあったが、仕事の内容の類似度は認められても、それがイコール価値の一致とならない。銀行員が100人いれば100通りの価値を生み出している。仕事の内容にも価値にも一致が見られた場合のみ、りそなは、その仕事内容についてパート従事者を正社員化する。」(大道寺峯子)

文責:清水 佑三

本質とはかくの如きもの、時流に流されるなかれ

 銀行は100人いたら100とおりの仕事がある。大道寺さんが取材したりそなの鶴田哲郎さんのコメントである。読者の理解を促すために、筆者注を添える。4大銀行とされる一行の業務分類大別表だ。

(某銀行の業務分類)

・業務部門
 個人部門、法人部門、企業金融部門、市場営業部門、国際部門、投資銀行部門及び各種本社部署・関連子会社。

・個人部門
 「支店」「ブロック」という名称の組織からなり、個人顧客宛金融商品販売業務、コンサルティング業務の深化を目指す。中期経営計画では投資信託、年金販売、証券仲介及び保険販売(解禁後)を注力分野としている。

・法人部門
 「法人営業部」「ビジネスサポートプラザ」からなり、法人融資・預金為替業務部のみならず、各種金融商品関連、アドバイザリー業務に注力。中期経営計画ではエクイティ投資を含めた中小企業育成、地公体・地銀との連携による地方経済への噛みこみなどを掲げている。

・企業金融部門
 上場企業クラス・日系グローバル企業を担当しており、東京・名古屋・大阪の「営業部」から成る。通常「本店営業第x部」という名称がついており、業種単位となっている。たとえば商社は主に本店営業第三部が所管する。

・市場営業部門
 資金・為替などの、ディーラー、トレーダー業務を主に担当、大規模海外拠点の資金繰りも業務範囲に含まれる。

・国際部門
 主に自行の海外拠点業務、日系企業の海外各地に於ける業務サポート、グローバル非日系企業宛取引推進、日系・非日系ストラクチャードファイナンスの推進などが業務。ストラクチャードファイナンス業務は自行の海外業務の柱である。

・投資銀行部門
 主に国内に於けるストラクチャードファイナンス営業部、シンジケーション営業部、不動産ファイナンス営業部、アセットファイナンス営業部などからなる。
 営業体制としては、法人部門・企業金融部門(国際部門)の各営業部が顧客窓口となり、デットファイナンスのソリューションについて投資銀行部門各部が専門的に提案・取組をするというダブルフロント体制となっている。

・本社部門
 経営企画部、財務企画部、人事部、総務部、リスク管理各部、調査部、事務所管部などからなり、必要に応じて海外駐在を有する。

・事務関連子会社
 同一営業店に、支店帰属のスタッフのほかに、法人営業部、支店サービス部のバックオフィス専業スタッフ(子会社)がいる場合がある。

・ITシステム関係
 全国にあるATM機を適切に動かすATM部隊と、自行の業務をシステム化して効率を高める非ATM部隊の二つに分かれる。

 上にリストできた「単位仕事」の数だけでも30個以上ある。それぞれに上下の三つの職位があるとして、それだけで90個を超える。鶴田哲郎さんの、100人いれば、100通り(種類)の仕事がある。そのとおりだろう。

 以下、筆者の考えを書いてこの稿を終えよう。

***

 この問題は「温室効果ガスの削減」で国際的なコンセンサスが得られない現状と酷似している。対極の価値観の葛藤がもろにぶつかって鳴門の渦巻状になっている。敢えていえば、文明の相克だ。

 社会主義政治の大きなうねりが東ヨーロッパを席巻していたヴェルサイユ条約締結後の1919年に、ILOが誕生した。その主張をみよう。

(ILO発足時の東ヨーロッパ各国の主張)

 彼等の主義主張は、政府、労働者、経営者間で、「労働者の性別間、年齢間、国籍間での賃金差別をなくしてゆこう」というもの。背後に賃金差別のない社会の理想があった。

(日本の現状)

 ILO“100条”は、1967年に国会批准を行っているが、実態としての改善はなされていない。履行を義務付ける立法化が骨抜きになっているからとされる。要するに、政府、経済団体とも気が入らないのだ。

 かかる現状にあってりそなのこの問題への取り組み方を筆者は肯定する。

 適当にやっている他社が多いなかで、誠意を感じる。優秀なパートは社員にあげる意欲を会社がもち、非優秀な社員はパートを自ら選択するというながれをつくっている。

 企業理念という意味で4大行でもっとも先頭を走っている実感をもった。

コメンテータ:清水 佑三